ミシェル・ラミー、第4回ファッション・トラスト・アワード特別功労賞受賞を祝し、2016年本誌インタビューを振り返る

起業家、デザイナー、アーティスト、カフェ経営者、リック・オウエンスの妻など、多彩な肩書を持つミシェル・ラミーが4月8日(現地時間)、アメリカのロサンゼルスで開催された第4回ファッション・トラスト・アワードで特別功労賞を受賞した。新進気鋭のデザイナーを支援する非営利団体「ザ・ファッション・トラスト U.S.」が主催するこのアワードの目的は、プレタポルテやアクセサリー、デザイン、サステナビリティの分野で活躍する人々の功績を讃えることにある。ラミーは「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」に輝いたトリー・バーチとともに式典に参加した。そんなラミーの受賞を記念して、2016年1月に発売されたUK版『10 Magazine』56号の独占インタビューをご紹介。インタビュアーを務めたのは、2024年に他界した本誌ライターのナタリー・デンビンスカ

ロンドンの老舗ホテル「クラリッジズ」のダイニングルームで朝食をとっていたミシェル・ラミーは、顔を上げて右隣に座っていたジャネット・フィッシュグランド(OwenscorpのPR担当)の方を見た。「それは何?」と尋ねる。「HPソース。知らないの? ソーセージとかベーコンとか、イングリッシュ・ブレックファストのおかずにかけるブラウンソースよ」とフィッシュグランドが答える。それから少しのあいだ、ふたりのやりとりが続いた。「マーマイト(酵母を原料としたイギリスの発酵食品)とはちがうの?」「ちがうわ」「遠慮しとく」。ミシェル・ラミーと聞いてマーマイトを思い浮かべる人はまずいないだろう。彼女が調味料の好みを口にすることは滅多にないし、そもそもラミーとマーマイトという組み合わせそのものが意外すぎる。そんなふたりの会話を聞きながら、私は思わず笑みを浮かべた。

ナタリー・デンビンスカ(以下、ND):ご自身の仕事をひと言であらわすと?

ミシェル・ラミー(以下、ラミー):起業家ですって言えたらいいんだけどね。昨夜、過去の自分のインタビューを読んでいて思ったの。私は起業家じゃないけれど、それ以外に自分をあらわす言葉がないことに。そんなことをしたら、自分がインタビューで語ったことと矛盾してしまうから。

ND:さまざまな分野で活躍されていますからね。

ラミー:そういうことじゃないの。あなたの職業は何? と聞かれて、自分はこれだ! って真っ先に浮かぶものもあれば、人から「あのとき、どうしてあれをしたの?」と聞かれて、初めて思い出すものもある——これだけキャリアが長いとね。その一方で、私自身は面白いことを続けるために、いつも好奇心を持ち続け、想像力を働かせ続けてきた。たとえば、駐車場のような場所を見つけると、「あの場所、前はカフェだった。あそこを使って何ができるかしら?」って考える。それが楽しいの。

ND:「猫に九生あり」と言いますが、それに似ていますね。数年おきにまったく別のことにチャレンジされている。不安になったりしませんか?

ラミー:不安にはならない。リック(・オウエンス)と一緒になってからは“軸”みたいなものができて、そのまわりでいろんなことをしながら、好きなときに出たり入ったりを繰り返してきた感じ。でもいまは、自分の限界を押し広げたいと思っている。時間の問題とか、「これもやらないと!」みたいな気持ちもあるしね。

ND:残された時間、という意味でしょうか?

ラミー:そうそう。作品やプロジェクトに取り組んでいるときは自覚していないけど、すべてはストーリーというか、ひとつの視点が出発点になっているの。だから、すべてがつながっているように思える。ひとつのものが別の方向に流れていくような。そういう感覚は常にあったかもしれない。

ND:最新作は『Bargenale』ですね。

ラミー:ええ。

ND:(2015年の第56回)ベネチア・ビエンナーレで初公開され、その後、ロンドンでも披露されました。移動式のレストラン/レコーディングスタジオ/パーティ会場ともいうべきこのプロジェクトを思いついたきっかけは?

ラミー:ロンドンにいたとき、ジャネット(・フィッシュグランド)と話をしたの。いま私たちがいるクラリッジズで。あのころはフリーズ・ロンドンや、ガレス・ピューのコレクションとか、ロンドンではいろんなことが起きていた。私はそういうのを観るのも好きだし、参加するのも好き。ちょうどガレスと一緒にサウスロンドンで開催されていた展覧会を観に行ったばかりで、ジャネットがロンドンで開催されているさまざまなイベントについて話してくれた。そのとき、ふと思ったの。「こんなにいろんなことが起きている中で、私がアートをする意味はあるのかしら?」って。そこから“食”の方向にシフトして、『Bargenale』のアイデアが生まれたの。運河に浮かぶ艀(はしけ)のような物体を見た人はみんな、「何これ?」って思ったみたいね(プロジェクト名の由来でもあるbargeは英語で艀を意味する)。

ND:ラミーさんが1990年代にロサンゼルスにオープンした「レ・ドゥ・カフェ」に通じるものがありますね。

ラミー:そうね。ずいぶん昔の話だけど、そういうスピリットはあったのかも。でも、それはすべてのプロジェクトにも言えること。自分の居場所がないときは、いつもこうやってきたから。

ND:自分の居場所は自分で作る、ということですね。

ラミー:そう。私はいまも、自分の居場所は自分で作っている。だから『Bargenale』にはそういうノマドな雰囲気があったし、ベネチアという土地柄、水の要素もあった。リックと私はパリに住んでいるけど、服の工場はイタリアにある。ベネチアから車で一時間半ほど走ったところに。ベネチアや水やラグーンが恋しかったの。

ND:『Bargenale』はラミーさんのエンターテイメント愛が出発点だとか?

ラミー:そうね。どちらかと言うと、自分を楽しませたいという思いの方が強い気がするけれど。

ジャネット・フィッシュグランド(以下、フィッシュグランド):どちらかと言うと、人をもてなしたい、という気持ちですよね。ミシェルは人に食事をふるまうことが大好きですから。

 

 

ND:その4ヵ月後にバービカン・センターで開催した1日限定のイベントBargicanでも、アフロフュージョン料理を提供しました。

ラミー:私のプロジェクトは、すべてがそんな感じなの。でも、Bargicanのきっかけはアーティストのダグ・エイケンだった。このプロジェクトはダグのプロジェクトの一環として行われたものだから。ダグとは長年の友人で、久しぶりにチューリッヒで会うことになっていたの。お互いの近況を語り合ったり、思い出話をするつもりで行ったら、バービカン・センターで『Bargenale』のようなことをやってもらえないか? と言われたの。いつ? って聞いたら、1週間後の6月26日って言うのよ。

ND:たった1週間で準備したんですか? すごいですね。

ラミー:でも、結果的には大成功だった。自分の心を信じて、邪魔が入らなければ……

フィッシュグランド:邪魔っていうのは、技術面での課題ということです。

ND:本能に従えると。

フィッシュグランド:明日もぜひやってほしいと言われるくらい大好評でした。後から思うと、続けてもよかったかもしれません。でも、あれでよかったのでしょうね。

ラミー:あれでよかったのよ。

ND:『Bargenale』のようなプロジェクトを今後も続けたいですか? 聞いたところによると、香港での開催を考えているとか?

ラミー:『Bargenale』に関しては、いろいろなやり方を考えている。ベネチアでの『Bargenale』は、とても意味のあるものだった。香港でもぜひやってみたいと思っているけれど、現時点では何とも言えないわね。実はこれと似たプロジェクト、それも常設のものをマルセイユのマリーナの近くでやろうと思っているの。世界に平和をもたらすための、私なりの方法として。それに、新しい食や人との出会いの場にもなると思う。食べ物や食べ方って、その人についてたくさんのことを語ってくれるから。そこに音楽も加われば、互いのことをもっとよく知れる。マルセイユのランドマーク的なものになれると思っているわ。

ND:人と人が出会い、交流できるような場所を作る、ということですね。

ラミー:そう。常設にすることで、“組合”のようなものになれると思うの。そこで音楽を演奏してもいいし……

フィッシュグランド:マルセイユでのプロジェクトのねらいは、ミシェルがこれまで手がけたプロジェクトを次の段階に持っていくことです。過去のプロジェクトは期間限定のものが多かったのですが、マルセイユのプロジェクトは常設という形をとります。それは必ずしもキュレーションが必要な場所ではありませんし、来てくれる人がみんなミシェル目当て、というわけでもありません。だからこそ、いろいろな人たちが交流できるように、さまざまな組織と仕事をしたいと考えています。

ラミー:マルセイユって、とても面白い街なのよ。地中海の真ん中にあってね。水のコンセプトともぴったり。

ND:そういえば、ハリウッド・クリスマス・パレード(毎年11月末にロサンゼルスで開催されるイベント)を再解釈したい、とおっしゃっていましたね。

ラミー:ええ。でも、やらせてもらえなかった。

ND:そうだったんですね。ハリウッド・クリスマス・パレードを再解釈するとしたら、どんなふうにしたいですか? と質問しようと思っていたんです。実際にそういう話があったのでしょうか?

ラミー:まさか! でも、ハリウッド・クリスマス・パレードって世界でもっとも最低なイベントなの。というか、世界のどこを探しても、ロサンゼルスほどアートディレクションのひどい場所はないわ。ジャン=ポール・グードのフランス革命200周年記念パレードを見せてあげたい。かれこれ20年以上前のことだけど、あれほど素晴らしいものはないんだから。まさに傑作ね。それはさておき、私は6回断られて諦めたの。だから、いまもハリウッド・クリスマス・パレードはひどいままよ。

ND:もう一度トライしてみませんか?

ラミー:イヤ。もう終わったことなの。

ND:話は変わりますが、ラミーさんのリラックス方法は?

ラミー:こうしてあなたのインタビューを受けること。

ND:それがリラックス方法なんですか⁈

ラミー:ボクシング。

ND:本当に? 初めて知りました。

ラミー:それには理由があるの。本当はジムに通おうと思ったんだけど、自分の脚に問題があって。実は私、横にしか走れないの。

ND:横にしか走れないって……カニじゃないですか。

ラミー:そう、カニなのよ。

10 Magazine 56号「PEACE, COURAGE, FREEDOM」掲載記事

@lalamichmich

THE RENAISSANCE WOMAN

Photographer MARIA ZIEGELBOCK
Text NATALIE DEMBINSKA
Talent MICHELE LAMY
Make-up MAYA BENAMER
Photographer’s assistant NICOLAS PIVETAL