世界も認める若手女性シェフ、庄司夏子が語る“東京を再び職人の街へ”

世界中の一流クリエイターたちを惹きつけ、数多くの才能が交差し、新たな文化やアイデアが日々生まれている東京“幻のケーキ”と称される唯一無二のスイーツを生み出した、世界も認める若手女性シェフの庄司夏子が「培ってきた仲間たちともう一度、東京を職人の街へ」と未来を見据えながら、現在の“東京”について10マガジンだけに特別な想いを語ってくれた。

若きシェフが10年前に発表した、マンゴーを咲き誇る大輪のバラの花に見立てたケーキ。「レストランにアニバーサリーで来店したお客様が、最後にプレートのデザートが出てきたときに盛り上がったり喜んでくれる瞬間を見るのが好きで、それをレストランでなくてもできないか、というのがこのケーキの構想でした。本当はレストランをやりたかったのですが、当時はまだ20代前半で物件を借りるお金もなければスタッフもいない。経歴のない若い女性シェフが集客するには1個のアイコニックなものを作る必要性があると思い、考え抜いて完成したのがこのケーキなんです」。マンションの一室を借りて、ECで受注したケーキの受け渡しスペースに。完全予約制・数量限定発売、1個1万円を超えるケーキは、その入手の困難さゆえ”幻のケーキと称されるようになった。

0から1へ、誰も見たことのないスイーツで大きなバズを起こした料理界のゲームチェンジャーは、その後も次々とまったく新しく、美しいケーキを発表。日本の四季折々の食材にこだわるため、素材には厳選した旬の国産フルーツのみを使用し、ケーキのデザインは、主役のフルーツ毎に変えている。赤からピンク、白へといちごが美しいグラデーションを奏でる作品は、それぞれの品種にも着目し、味の変化も楽しめるという「ケーキが導いてくれた」快進撃で、2020年に日本人女性初の「アジアのベストパティシエ」賞を受賞し、2022年には「アジアの最優秀女性シェフ賞」、そして2023年には「The Best Chef」で世界29位に輝く。現在では1日1組、6席限定のフレンチレストラン「エテ」と、ケーキのお渡し専門スペースとなる「フルール ド エテ」を構える。

ファッションやアートにも精通する彼女は、異業種とのコラボにも積極的だ。ケーキにフリルをあしらったトモコイズミとのコラボスイーツなど、個性豊かな相手との作品も毎回大きな話題に。中学時代からファンだったという村上隆とは、猛烈なアタックを続けた末コラボケーキに辿り着いた。この夏にはエテの10周年を記念してフラワーアーティストの東信とタッグを組み「本当に宝物ように美しい」ビジュアルを発表するとともに、花々の中にちりばめられたマンゴータルトやフルーツを摘んで味わうインスタレーションを開催した。

「自分のオリジナリティからぶれないことはもちろん大事ですが、相手のことを理解していることも同じくらい大切。どんな相手と仕事をするときも、まず最初にそのブランドやアーティストの作品を購入し、自分自身が相手のいちファンになることから始めます。ただシェフがアサインされただけのプロジェクトは絶対にしたくないし、相手へのオマージュがないコラボってお客様にもばれてしまう。やるからには本当の意味でのコラボレーションをやりたいので、それぞれのアイデンティティを理解して、生かすものにしないと。自分がすごく好きで共鳴しあえる人と、新しいものを作っていきたいんです」。

違うジャンルを攻めたコラボをすることで、互いのファン層が交差し、新たなファンが獲得でき、それがひいては業界の発展にも繋がっていくのだと言う。グラフィックアーティストのヴェルディとは、2020年以来ケーキやチョコレートでコラボを重ねているが、ある時、コラボスイーツの購入者がその空箱を大事に保管していることを知ると、2人は新たなプロジェクトに向けて動き出す。伝統技術に光を当て、日本が世界に誇るマスターピースの素晴らしさをより広く伝えようと、両者のロゴを入れたハート形の有田焼の器「エテ×ガールズドントクライ」を発表。さらに2人は、その売り上げの一部を若手職人の活動支援などをサポートする一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会に寄付することを決めた。

「有田焼の職人は高齢の方がほとんどで、深刻な後継者不足の問題に直面しています。ヴェルディくんとのコラボも、回数を重ねたからこそより深いものを作っていける。それぞれのインフルエンス力を別の方向でも生かしていけたら、業界の悩みを改革できる可能性を秘めている。それに、海外のストリートの子たちにまで有田焼が広まってくれたら最高じゃないですか!」

料理業界全体も、働き手の不足が叫ばれている昨今。この問題へのアプローチも彼女流だ。着用するアンブッシュ®のユーンにデザインしてもらったというユニフォームには、料理人の地位と料理の価値を高めたいという想いが込められている。シェフを魅力のある職業として世に広めるための一つの手段だ。

「東京はかつて職人がいっぱいいた街だったけど、今は職人に対して厳しい街になっていると思います。私が修業していた時代は24時間働いても何も言われなかったけれど、労働時間の縛りなどで、料理界含め、様々な分野において職人が育ちづらくなってきているのが実情です。東京は世界から見てレストランも食材も一番コンペティティブでハイエンドなものを提供しているけれど、それはここでみんなが切磋琢磨してきたからこそ。今女性シェフになりたいと言う人もすごく少ないですけど、そもそも少子高齢化もあって料理人になりたい人自体が本当に少ないんです。ここまで10年。ここから先の10年では、次世代の開拓という大きな課題を解決したいです」

Profile
庄司夏子
シェフ・パティシエ。東京都出身。ミシュラン2つ星のフレンチレストランでスーシェフとして活躍した後、2014年にスイーツ専門店の「エテ」をオープンする。マンゴーなど旬のフルーツを贅沢に使った芸術的なケーキが話題を呼ぶ。25歳の時に1日1組限定のレストランをスタート。「アジアのベスト・レストラン50」では、 2020年「アジアのベスト・パティシエ賞」、2022年「アジアの最優秀女性シェフ賞」を受賞。また22年は「世界のトップシェフ100人」にも選ばれる。現在はフレンチレストラン「エテ」とケーキのお渡し専門スペース「フルール ド エテ」の2店舗を構える。

Special thanks to ÉTÉ

Photographer YUJI WATANABE
Text TOMOMI HATA
Sittings Editors SAORI MASUDA and TOMOMI HATA
Digital Editor MIKA MUKAIYAMA