新曲が発表されるたびに世界を揺らし、私生活の一挙手一投足がニュースになるシンガーソングライターのFKAツイッグス。いま最も挑発的なアーティストの内側に触れた。
ドレス 「ホースビット」ピアス・外(YG) ピアス・内 リング(18kWG×ダイヤモンド)/GUCCI シューズ/CHRISTIAN LOUBOUTIN
イギリスのシンガーソングライターのFKAツイッグスは「EUSEXUA(ユーセクシュア)」という言葉の意味について改めて考えている。これはツイッグスが考案した造語であり、これまでに「流動性」や「オーガズム直前の無の瞬間」など、さまざまな解釈をされてきた。実を言うと、この言葉は2025年1月にリリースされた彼女のサードアルバムのタイトルなのだ(同作は第68回グラミー賞にて「最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム賞」を受賞)。同年11月にはその続編ともいうべき4作目のアルバム『EUSEXUA Afterglow』をリリースするなど、ツイッグスに関する話題は尽きない。そんな彼女にとって『EUSEXUA』がオーガズムだとしたら、『EUSEXUA Afterglow』はセックス後の至福を意味するのだろうか?
「『EUSEXUA』は、セックスとは無関係」とツイッグスはきっぱり否定し、次のように続けた。「それは素晴らしいアイデアがひらめく直前の無の状態なの」。時刻は午前8時。私たちはビデオ通話アプリを介して話をしている。画面の向こう側にいる彼女は、本誌の撮影を前にヘアメイクの真っ最中だ。私が「カメラをオンにしてください」と頼んでも、「ダメ、秘密」と断られてしまった。
そんなやり取りのあとでツイッグスは、「アイデアがひらめく前って、必ず何もない瞬間があるじゃない? たとえば、料理をするときとか。最初は『難しすぎてムリ』って思うけど、いつの間にかコツをつかんで何もかもが楽しくなってた、みたいな。それが『EUSEXUA』なの」と言い添えた。
トップス/AMERICAN VINTAGE 「ブルガリ トゥボガス」 ピアス(18kYG×ダイヤモンド)/BVLGARI
FKAツイッグスことターリア・デブレット・バーネットの口から料理のたとえが出てきたのは意外だった。『EUSEXUA』を引っ提げてのヨーロッパ公演に音楽フェス、さらには『EUSEXUA Afterglow』のリリースなど、目まぐるしいスケジュールをこなす彼女がキッチンに立って料理をする姿なんて想像できないからだ。それに2026年3月からは、北米とヨーロッパのアリーナを回る「Body High Tour」がいよいよ開幕する。それに加えて、このインタビューの数日前には第68回グラミー賞の授賞式にも出席していた。
「グラミー賞の授賞式って、テレビで見るよりずっと賑やかなんだよね。いろんなところでみんながおしゃべりしていて、かなりカジュアルな雰囲気なの」と彼女は言う。
受賞スピーチでは、決して平坦ではなかった自身の道のりを振り返ってオーディエンスを感動させた。実験的なエレクトロニックサウンドとともに『EP1』(2012年)でデビューした彼女は、その後2作のアルバムとミックステープ『CAPRISONGS』(2022年)をリリース。ザ・ウィークエンドやフレッド・アゲイン、ノース・ウェスト(キム・カーダシアンとカニエ・ウェストの長女)とのコラボレーションも行っている。
ボディスーツ/WHITAKER MALEM
そんな彼女の音楽の魅力のひとつは、ガラスのように透き通ったヴォーカルにある。だがアーティストとして成功する一方で、俳優のロバート・パティンソンやThe 1975のマシュー・ヒーリーとの交際が世間に取り沙汰されるなど、ゴシップや中傷の標的にされることも増えていった。そして2020年に俳優のシャイア・ラブーフにドメスティック・バイオレンスを受けていたことを告白すると、人々はツイッグスのプライベートをさらに詮索するようになった。
一時の成功よりも持続的なキャリアを─ツイッグスは常にそれを目標にしてきた。それはポールダンスから剣術にいたるまで、あらゆることをこなしてしまう彼女のプロ意識が物語っている。「苦しい道のりだけど、終わりはいつも最高」とツイッグスは言う。「過去に戻ってもきっと同じ道を選ぶと思う─それが運命だから。そのことに心から感謝している」。彼女にとって世間の注目を集めることは、アーティストとして生きることの“副産物”に過ぎない。「なすべきことをしていれば、私の音楽に関心を持ってもらえると信じている」と彼女は話す。
ツイッグスは、自身の音楽─特にパティンソンとの破局と子宮筋腫との闘いを歌った2019年のアルバム『MAGDALENE』と、DV被害を受けていたころに書かれた「Keep It, Hold It」(『EUSEXUA』収録)─を通して自らをさらけだしてきた。「自分が伝えたいと思うことは、必ず伝える。時には自分だけではどうにもならないこともあるし、それは辛いことでもある。でも、すべてが終わったらいつも音楽に戻りたくなる」という言葉からもわかるように、音楽やオーディエンスに対して誠実であることは彼女のポリシーでもある。
ドレス/ALAÏA 「ブルガリ トゥボガス」ピアス (18kYG×ダイヤモンド)/BVLGARI
ツイッグスはイギリスのチェルトナムでジャマイカ人の父とスペイン系イギリス人の母との間に生まれたが、18歳になるまで父親に会ったことはなかった。自身の仕事観に影響を与えたのは、母親の再婚相手だったという。「私は有色人種だから、ほかの人の何倍も努力をしないといけないと教えられた」とツイッグスは話す。18歳になると、アデルやエイミー・ワインハウスを輩出したブリットスクールに入学するためロンドンに移住。バックダンサーやナイトクラブのシンガー、ストリップクラブのホステスとして生計を立てながら、音楽制作を続けた。
その後、アルカやコアレスといったエクスペリメンタル・ミュージック界を象徴するアーティストとの音楽制作を機に存在感を高めていった。やがてスターゲイトやジャック・アントノフといったヒットメーカーたちとの共創によって、ツイッグスは「最もアヴァンギャルドなアーティストのひとり」としての地位を不動のものにした。
ツイッグスの“異色さ”は、そのキャリアだけでなくマーケティング戦略にも現れている。たとえば『EUSEXUA Afterglow』がリリースされると、ツイッグスは音楽ストリーミングサイト上で『EUSEXUA』のアートワークを替え、4作の既存曲を4作の新曲に差し替えた。当然、ファンは混乱した。これについて彼女はこう話す。「私はCDやカセット、レコードといったフィジカルな音楽メディアが大好きなの。こうしたメディアは音楽ストリーミングよりも『自分がその月にいくら稼いだか』や、リスナー像を把握しやすい気がする。私だって、生きるためにお金は必要だから」。そうした彼女のアプローチからは、既存のルールを恐れない遊び心が垣間見られる。
ドレス/MOWALOLA 「ブルガリ トゥボガス」ピアス(18kYG×ダイヤモンド)/BVLGARI
いつのまにか画面越しの物音が忙しなくなってきた。ヘアメイクが佳境に入ったのだろう。最後に「Body High Tour」のことでインタビューを締め括ろうとすると、ツイッグスは「私は、ほかのアーティストとは全然ちがう道を歩んできたから」と笑いながら言った。今回のツアーではフランス系ベルギー人のダミアン・ジャレが振り付けを担当し、あらゆるバックグラウンドを持つダンサーたちがステージを共にするという。きっとツイッグスらしい、アヴァンギャルドなステージになるにちがいない。
「『EUSEXUA』が多くの人に届き、グラミー賞まで獲得できたのは素晴らしいこと。でも、私は『CAPRISONGS』以来、ほぼセルフマネジメントを貫いてきた。アルバムのPRキャンペーンからツアーグッズの企画まで、ぜんぶ自分ひとりでやってきたの。大変だけど、それが私のやり方なんだよね」。そう言って通話を切る直前、一瞬だけカメラをオンにして、真っ赤な髪を誇らしげに見せてくれた。
ドレス/MOWALOLA 「ブルガリ トゥボガス」ピアス(18kYG×ダイヤモンド)/BVLGARI
FKA twigs(FKAツイッグス)
シンガーソングライター。1988生まれ、イギリス南西部グロスタシャー出身。幼少期からダンスを学び、13歳で作曲を始める。2012年に『EP1』でデビュー。2014年にデビューアルバム『LP1』、2019年に2作目となるアルバム『MAGDALENE』を発表。2025年リリースの3作目アルバム『EUSEXUA』では、第68回グラミー賞にて最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム賞を受賞。
〈トップ画像・左から〉ジャケット/MUGLER 表記外のアクセサリー ウェア/アーティストおよびスタイリスト私物
Photographer and Creative Director IB KAMARA
Fashion Editor SHAQUILLE ROSS-WILLIAMS
Talent FKA TWIGS
Text MICHAEL CRAGG
Dancers MAX COOKWARD, EDDY SOARES, EMILIANO JIMENEZ,
JAMES PHU AHN VAM, JAXON WILLARD and PABLO PAULDO
Hair LOUIS SOUVESTRE
Make-up CATALINA SARTO
Set designer SAMUEL OVERS at New School Represents
Tailor JOEL RYAN
Photographer’s assistants JOE PETINI, TEDDY PARKS and NICHOLAS BEUTLER
Fashion assistants RUI SANTOS, FATMA TYRA MAALOW, TOMMY DOWLING, ENIKAE, KUSEJU IBRAHEEM and GEORGIA EDWARDS
Set design assistants HENRY HAWKSWORTH and OLIVER BELL
Casting SIMOBART CASTING
Production PHOEBE SHARDLOW at New School Represents and
TOMOS MACDONNELL at IB Kamara Studios
Production assistants YAGAMOTO at New School Represents and
MADDISON SLEEUWENHOEK
Post-production HELEN RETOUCH
Translation SHOKO NATORI






