世界を股にかけ活躍するグラフィックアーティスト、VERDY。裏原カルチャーから大きな影響を受けた彼が、その類い稀ない多彩なアイデアの原点は“自分の中の気持ち”だと答えた。国内外にオフィスを構える彼の活動拠点であり、世界中の一流クリエイターたちを惹きつけ、新たな文化やアイデアが日々生まれている現在の“東京”について、10 マガジンだけに特別な想いを語ってくれた。
大きな窓から外光が注ぐ広々とした明るいアトリエ。天井高のある壁面を覆い尽くすのは、お気に入りのグラフィックや写真。ここにはそこかしこに、主であるヴェルディの好きなものが溢れている。仕事場があるのは、クリエイティブな面々が集うNIGO®によるシェアオフィス「オツモセンター」のワンフロア。ファッション業界だけでなく、アートシーンでも存在感を際立たすグラフィックアーティストが、仕事場をここに構えたのは2年前のことだった。
「ここはシェアオフィスですが、仕事で互いを行き来することはほとんどないんです。でも、NIGO®さんのアトリエに来たファレル(・ウィリアムス)が立ち寄ってくれたり、海外の友人が遊びに来たときにタイミングが合えば紹介したり。そうした偶然の交流が起こることはあります。ですが、それ以上に東京でこれだけ広い場所を持てたということが、自分にとっては大きい。以前なら、大きな作品の制作には気合いを入れてスタジオのある大阪へ行く必要があったのですが、ここなら思い立ったときにいつでも描けるので」
ヴェルディが大阪から上京したのは23歳のとき。現在は東京を拠点としながら、大阪にもオフィスやスタジオを持ち、さらにはピザ屋やギャラリーもオープンさせている。今や世界的に注目を集めるヴェルディだが、その原点は20代で体験した裏原カルチャーにあった。
「東京に出てきた頃、すぐには仕事もなくて。でも、原宿のバウンティハンターの店の前に行けば、みんなが集まっていたんです。そこで知り合ったり、人を紹介してもらったり、繋がっていきましたね。はじめてロサンゼルスに行ったときも、日本から来たと言うと、NIGO®さんやアンダーカバーが好きだと話しかけてくれる人も多く、自然とそこから繋がっていくんです。海外の若い世代への影響は絶大でしたね。自分も日本人のグラフィックアーティストとしてすぐに受け入れてもらえたのは、裏原カルチャーの土台があったからだと思います」
今年のヴェネチア・ビエンナーレで発表されたスウォッチをはじめ、ケンゾーからブラックピンクまでと、ヴェルディは多彩なジャンルとのコラボレーションを手掛けていることでも知られる。その大半は、意外にも自分からのアプローチで始まることも多いという。
「作品では、自分の中にあるメッセージやその時の気持ちを大事にしています。重視しているのは、やりたい仕事をやること。だからこそ待っていても来ないので自分から動くしかないんです。好きなものの中に、自分のグラフィックが入り込むってワクワクしませんか。子どもが生まれるときも、自分らしいベビーカーを作りたいと思い、サイベックスに声を掛けました」
世界規模のメーカーやブランドとのコラボも多く、ロサンゼルスにもオフィスを持つヴェルディだが、今後も拠点は東京だと話す。
「自分は裏原カルチャーの最後の世代だと思っています。藤原ヒロシさんやNIGO®さんなど、あのカルチャーを創り出した先輩たちは、どれだけ海外で活躍しても、常に東京から世界に発信し続けています。自分もそうありたいですね。今、東京ではイベントやパーティーが日々どこかで開かれていますが、かつての“自然と集まる場所”はあまりないような気も。そんな場所をまた作りたいと、みんなとよく話しています」
Profile
VERDY
大阪府生まれ。グラフィックアーティストとして活躍する一方、自身のファッションブランド「ウェイステッド ユース」や「ガールズドントクライ」を展開。音楽やファッションに関係するプロジェクトや、幅広いジャンルとのコラボレーションも多く手掛け、ボーダレスに活動する。うさぎとパンダをミックスした「ヴィック」や毛むくじゃらの「ヴィスティ」はオリジナルのキャラクター。2023年、大阪に「ヘンリーズ ピザ」と「ライズ アヴァブ ギャラリー」をオープン。
Photographer YUJI WATANABE
Text AKANE MAEKAWA
Sittings Editors SAORI MASUDA and TOMOMI HATA
Digital Editor MIKA MUKAIYAMA