カオスが生む、プラダの新たな美学

プラダのアトリエの卓越したクラフトマンシップと社会の今を映し出すモダンな表現。時代を超えて語り継がれる美しいデザインを、写真家のヴァニナ・ソレンティが洗練された視点でセンシュアルに撮り下ろす。

ジャケット ドレス ハット/PRADA

カルチャー的カオス理論とでも呼ぶべきか、それともハイファッション時代のシャッフルか。いずれにせよ、プラダの2025年春夏コレクションにはすべてが詰まっていた。

重厚なBDSM(ボンデージSM)風レザーに揺れるリング、慎ましやかなボウタイブラウス、華やかなカウガール風フリンジ、シャープなスペースエイジ・シルエット、そして(フェイク)ファーで縁取られたブルジョワな60年代風ツイード──すべてが入り乱れ、視線を奪い合うスタイルのカオス。まさに技巧と洗練の競演であり、プラダのアトリエの卓越したクラフトワークが随所に発揮されていた。

トップ ベルト付きスカート/PRADA

特に際立っていたのがルック45(下記)。このスタイリングこそ、プラダの型破りなアプローチを象徴していた。銀色に輝くスパンコールとミラー刺繍が施されたドレスに、鮮やかなイエローのカグール(防水ジャケット)を合わせ、さらに不可解にも素朴なラフィア素材のバケットハットを組み合わせるという、まさに意表を突くコーディネートだった。

ジャケット ドレス シューズ/PRADA

ショー終了後、ミウッチャ・プラダと共同クリエイティブ・ディレクターのラフ・シモンズは、この驚くべきランダムさが「アルゴリズムがもたらす均一化現象」への私たちの答えであると説明した。現在、私たちは同じようなものが繰り返し押し寄せる世界に生きている。だが、プラダは違う。同じようで少し違う? そんな退屈なループを、プラダは完全に打ち破ったのだ。

「プラダには多様な表現があることを示したかったのです」と、ミウッチャ・プラダは語る。「今の時代、私たちはアルゴリズムによって無限の情報にさらされています。それぞれが自分専用にキュレーションされた現実を見ているのです」。そして彼女は続けた。「私たちはそれを批判するのではなく、対話を試みました。今という時代からインスピレーションを受け、その本質を探り、私たちなりの反応を示したのです。選択の自由、予測不能であること──それこそが人間の創造性の尺度であり、プラダがそれぞれの個人に向けたメッセージなのです」

コート スカート シューズ/PRADA

この大胆な試みは見事に成功した。印象的だったのは、それぞれのアイテムが持つ唯一無二の魅力だ。例えば、クラシックなレオパード柄のコート、ヴィンテージ感漂うスエードジャケット、そしていかにもプラダらしいプリーツスカート。それらはヘビーデューティーな金属ループ付きのベルトから吊るされ、独特の存在感を放っていた。

さらに、アーカイブから復刻されたシューズが登場し、会場の熱気をより一層高めた。1996年春夏コレクションのフラットなレザー・クロスサンダル、2008年秋冬のストライプヒール、2011年春夏のプラットフォーム・エスパドリーユ・オックスフォード、そして2012年秋冬のラバーコーティングされたメリージェーンヒール──これらの復刻アイテムに、私たちはすっかり心を奪われた。

ジャケット トップ ベルト付きスカート ブーツ/PRADA

しかし、このショーの真の主役は、あの壮麗なシルバードレスだった。ランウェイに姿を現した瞬間、観客は息をのんでその輝きに見入った。スパンコールの刺繍、円形のミラー、立体的なカットストーンがちりばめられたこのドレスは、まるで歩く光の彫刻のように、会場全体を魅了した。

このドレスの制作は、まさにデザイナーたちの情熱の結晶だった。ほぼ無重力のように軽やかなヌードチュールに、シルバーのスパンコールを透明な糸で縫い付け、その上にプラダの職人たちが様々なサイズのミラーを配置。ミラーはジュエリーのようなクリスタルのフレームで縁取られ、最後にカットストーンがちりばめられた。完成したドレスには、 2700もの刺繍パーツが使用され、その内訳は144枚のミラーと2500個以上の異なる形状・サイズのクリスタル。

コート トップ スカート/PRADA

刺繍が仕上がると、ドレスはマネキンにかけられ、4時間「休ませる」。これにより、布地が身体に沿う完璧なシルエットを形成する。その後、ライニングが施され、リボンテープで仕上げられ、着用者のためにスチームアイロンで整えられる。

こうして完成したドレスは、重厚でありながらも繊細。その3Dの反射刺繍によって光を放ち、同時に吸収することで、幻想的な輝きを生み出していた。このコレクションには魅力的なピースが数多く登場したが、その中でもこのドレスの存在感は群を抜いていた。

ニット シャツ ショーツ ベルト シューズ/PRADA

「私たちは、個々の人々をスーパーヒーローと捉えました」と、ラフ・シモンズは語る。「それぞれが独自の力とストーリーを持つ。これは、変身の概念を表しています──それは、あなたの行動や、着る服を通じて起こる変化。すべてが、自分自身のメッセージを表現する手段なのです。自分の権威、自分自身の強さ。それは、あなたの自己認識さえも変える力を持っています」

大胆で、ルールを打ち破るからこそ価値がある。このプラダのコレクションは、圧倒的なエネルギーに満ちていた。ジッパーを閉める一瞬で、ファッションヒーローへと変身させてくれるような、心躍るアイテムが詰まっていた。そして、その中でもひときわ目を引いたのは、まばゆいスポットライトを浴びた、あのシルバードレスだった。

バッグ/PRADA

Photographer VANINA SORRENTI
Fashion Editor SOPHIA NEOPHITOU
Text CLAUDIA CROFT

Model MELINDA KISS at Special Management
Hair HIROSHI MATSUSHITA using ORIBE
Make-up LUCIANO CHIARELLO at Julian Watson Agency
Digital operator MARTA GABRIELE
Photographer’s assistants GIACOMO DEMELLI and
TOMMASO ZUCCHETTI
Fashion assistants ALICE BALDUCCI at Noob Agency,
GEORGIA EDWARDS and SONYA MAZURYK
Production ZAC APOSTOLOU
Casting SIX WOLVES
Special thanks to Circus Studios

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