大阪・関西万博でルイ・ヴィトンとコラボを果たした建築家・重松象平が語る“東京現在地”

世界を股にかけ、現在開催中の2025年大阪・関西万博のフランス パビリオンで、メインパートナーを務めるLVMHのルイ・ヴィトンとコラボした展示が話題を集めている建築家・重松象平。都市の多様性を引き出し、見たことのない情景を作り出す彼が、世界中から一流のクリエイターたちを惹きつける磁場となっている現在の東京について、特別な想いを語ってくれた。

「東京は、訪れる度に新しい体験や景色に出会える都市。いい意味で、いつまでも消費しきれない都市です」

そう語るのは、東京の新たなランドマークとして注目を集める〈虎ノ門ヒルズステーションタワー〉を設計した建築家の重松象平だ。建築事務所OMAニューヨークの代表を務め、これまでに中国中央電視台新社屋やティファニーのニューヨーク本店の改修・増築などを指揮し、世界各地で多岐にわたるプロジェクトを手掛けてきた。そのため、ニューヨークを拠点にしつつも、1年の大半は世界のどこかを飛び回っている。近年は、大規模プロジェクトを抱える日本での滞在も増え、東京の街に向き合うことも多くなったという。

「東京は、有機的な構造を持つ都市です。たとえばニューヨークは、グリッド状に街が区切られるので、ある意味とても分かりやすい。けれども、東京の街は道が入り組み、様々な景観が混在します。渋谷と新宿、青山と原宿、それぞれに物理的な距離は近いですが、街での体験は異なります。色々なキャラクターを持ったエリアの集積、それが東京ではないでしょうか」

昨今、大規模な開発が進む東京だが、そうした複合施設には似たようなコンテンツが入り、その建物の中だけで完結することが多い。また同じような外観の商業ビルが建ち並び、街での体験も均質化しているという。

「都市には多様性が重要」と話す重松は、地上49階建ての超高層タワーとなる〈虎ノ門ヒルズステーションタワー〉の設計にあたり、建物に街としてのアイデンティティを生み出す仕掛けを組み込んだ。

「人が集まることで、場所のアイデンティティは確立されていきます。虎ノ門は、日本有数のオフィス街。官公庁のある霞が関に隣接し、新橋や汐留、六本木にも近く、これらの街を繋ぐ結節点でもあります。またビジネスの中枢である一方、文化的コンテンツは少ない地域。だからこそ結節点という利点を活かし繋ぐことを意識し、低層階は広場や自由に通り抜けることのできるスペースで公共性を高め、文化的複合施設を最上層階に配置することで、垂直方向にも公共の流れを作り出しました」

〈虎ノ門ヒルズステーションタワー〉は、食、芸術、ビジネス、ホテルと多彩な要素を内包する複合施設だが、いわゆる展望台は存在しない。

最上層階を占有するのは、イベントホールやギャラリー、レストランなどで構成される新しい情報発信地〈TOKYO NODE〉。さらには、地上の公園の緑を垂直方向へと繋げ、屋上にオープンエアのガーデンを造設。地上250mの天空庭園には東京の絶景を望むインフィニティープールをデザインし、「これまでに見たことの無い情景」を作り出した。

「東京の人は、3次元的に回遊するリテラシーが高いと思います。ヨーロッパでは、このような複雑な構造はなかなか受け入れてもらえない。垂直方向に都市が広がる今、上層階に文化的なコンテンツがあれば、何度も足を運ぶきっかけとなり、建物の活性化を図ることができる。イベントやカンファレンスなど、常に何かがそこで起こることで人の流れが生じ、虎ノ門という街に新たなアイデンティティが生まれるのではないでしょうか」

また、現在は来春竣工予定の〈原宿クエスト〉の建替えプロジェクトも進行中だ。〈原宿クエスト〉といえば、80年代に建てられた原宿の若者たちのカルチャーを象徴する複合商業施設のひとつ。その敷地は、原宿駅から徒歩数分の表参道に面している。

「この建物にはデュアリティを持たせています。表参道は、今やラグジュアリーブランドの旗艦店が建ち並ぶショッピングエリア。きらびやかな通りの一方で、敷地のある裏手には、小規模なショップが軒を連ねる奥原宿があります。けれども、表参道に並ぶ建物はメイン通りを意識しても、裏に背を向けたものが多い。

でも実際は、世界に誇る日本のポップカルチャーは、裏原や奥原宿から生まれたものです。〈原宿クエスト〉には、その地域の特性である二面性を落とし込み、表参道沿いには商業的な顔、奥原宿に対する面はテラスが段々と低くなり街に溶け込む設計を試みました。両エリアを行き来できるパサージュを作り、若い人たちのエネルギーを巻き込みながら、街全体の回遊性を高める装置としての役割を提案しています」

最後に、キャリアの中で転換点となった仕事について聞くと、中国中央電視台新社屋とメトロポリタン美術館の『Manus×Machina』展(2016年)との答えが返ってきた。

「どの仕事からも気づきがあり、インスピレーションをもらっています。あえて挙げるとすれば、この2件。2000年初頭を北京で過ごし、高度成長期のような都市の高揚感を肌で感じられたことは、建築に携わる者として貴重な体験でした。また、メトロポリタン美術館での空間設計は、「クリスチャン・ディオール」展へと繋がり、引き出しを広げていくきっかけになったと思います」

Profile
重松象平

福岡県生まれ。九州大学工学部建築学科卒業後、1998年OMAに所属。2008年パートナーに就任、現在OMAニューヨークの代表。2021年より九州大学大学院人間環境学研究院教授を務める。代表作に、コーネル大学建築芸術学部新校舎、ケベック国立美術館新館など。2023年の「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展の空間設計が話題を呼び、今年6月に「ミスディオール展覧会、夢のクチュリエ展」でも会場をデザイン。ルイ・ヴィトンの世界巡回展のデザインも手掛けている。2023年毎日デザイン賞を受賞。

Photographer YUJI WATANABE
Text AKANE MAEKAWA
Sittings editors SAORI MASUDA and TOMOMI HATA

SHOHEI SHIGEMATSU wears LOEWE
Special thanks to TOKYO NODE at TORANOMON HILLS STATION TOWER
Digital Editor MIKA MUKAIYAMA

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