暖かいながらも風の強い4月某日の夕刻。ミラノのそこかしこに人だかりができていた。通りの片側にはロエベの展示を見るための行列ができ、反対側のブロックではアルマーニの前で大勢の人が並んでいる。さらに石畳の道を進むと、エルメス前はちょっとしたモッシュ状態だ。特別なタイムセールでもやっているのだろうか?と思うかもしれないが、そうではない。今年もミラノサローネ国際家具見本市の季節がやってきたのだ。イタリアのデザインの中心地であるブレラ地区は、まるでお祭りのように賑わっていた。
ミラノの街がパンク状態に陥るのはファッションウィークの時期だけ、といまだに思っている人は、ぜひともサローネ期間中に訪れてみてほしい。そんな考えは、きっと吹き飛んでしまうから。毎年4月に行われるミラノサローネを中核とするミラノデザインウィーク期間中は、街全体が技とスタイルの祭典と化し、触れそうなくらいリアルな熱狂で人々を包み込むのだ。
今年はカルテル(Kartell)やカッシーナ(Cassina)、フロス(Flos)といった人気のインテリア・照明ブランドや、ディモーレスタジオ(DIMORESTUDIO)、ラスビット(Lasvit)、アルコバ(ALCOVA)いった気鋭のモダンデザインスタジオとともに、ますます多くのファッションブランドがその存在感を示した。ありとあらゆる媒体を使った折衷的な組み合わせにより、誰も観たことのないようなデザインが次から次へと披露された。
ジョルジオ アルマーニは本社があるパラッツォ・オルシーニにて、数十年にわたる旅とインスピレーションに捧げられたコレクション「Echoes From The World」を発表。サプライズで登場したアルマーニ氏が旧友のようにゲストを迎えた。そのいっぽうでプラダは、フォルマファンタズマ(FormaFantasma)とのコラボレーション「プラダ フレーム」の一環として文学イベントを開催した。イベントでは、家庭における植物の歴史や、植物と私たちの共依存的な関係に関するレクチャーが行われた。そしてエルメスは、16種類の土、石、木、イタリア名物レンガのブロックをリサイクルした素材で作られたキャットウォークを披露。設置には、なんと4週間もかかった。ミラノ以外にこうした驚くべき演出が体験できる場所は、世界中どこを探しても見つからないだろう。
courtesy of Gucci (left) and Loewe (right)
今年で63回目を迎えたミラノサローネでは、他にもさまざまなイベントが目白押しだった。本誌もサローネの現状を知るために奔走し、ひとつひとつの展示をじっくり見て回った。そのおかげで大きな収穫があった。それは、ファッション業界のトレンド志向は、何もランウェイに限ったことではないということだ。それを示すかのように、今年はミラノのファッションブランドの多くが過去の名作デザインとのコラボレーションを行っていた。
ろうそくの明かりに灯されたサン・シンプリチャーノ教会の回廊で行われたサンローラン リヴ・ドロワのプレゼンテーションでは、ジオ・ポンティがベネズエラ・カラカスのアナラとアルマンド・プランチャート夫妻宅のためにデザインし、クリエイティブ・ディレクターのアンソニー・ヴァカレロがキュレーションを務めたプレートが未来的なチューブの中に展示された。グッチの「デザイン・アンコーラ」(新たにクリエイティブ・ディレクターに就任したサバト・デ・サルノのデビューコレクション)では、マリオ・ベリーニやピエロ・ポータルッピ、ナンダ・ヴォージ、トビア・スカルパ、ガエ・アレンティ、ピエロ・カスティリオーネによる5つのアイコニックなオブジェが、ブランドの新しいシグネチャーである深みのあるチェリーレッドをまとって生まれ変わった。ロロ・ピアーナでは、インテリア部門のディレクターであるフランチェスコ・ぺルガモが2020年に世を去った建築家チニ・ボエリにオマージュを捧げた。ボエリがデザインした代表的な家具をロロ・ピアーナのラグジュアリー感あふれるファブリックで飾り、存命であれば100歳を迎えた誕生日を祝った。そしてヴェルサーチェは、ブランドの本拠地であり、スーパーモデルブームのきっかけとなった1991年のコレクションが生まれた場所でもあるパラッツォ・ヴェルサーチェを舞台に「If These Walls Could Talk」と題したショーケースを通じてホームコレクションを披露した。
この他の場所でも、さまざまなブランドによる創意工夫が凝らされたイベントが行われた。フェンディ カーサと ドルチェ&ガッバーナは、ホームコレクションに新たな作品を迎え入れた。ミュウミュウは先駆的な女性作家シビラ・アレラーモとアルバ・デ・セスペデスの著書を祝う初の文学イベントを実施。ロエベは、過去のクラフトプライズやファッションショーで共に仕事をした24人のアーティストを招き、初めての照明の制作を依頼した(その結果は、ファッションとデザインの両方において、この週のハイライトとなることが広く認められている)。
なんといってもミラノサローネ/デザインウィークの最大の魅力は、ゲストリストが存在しないこと。サローネの門戸は一般の人々にも開かれているのだ。だからこそ街は人であふれ、バーは満席となり、カーニバルのような和気あいあいとした雰囲気に包まれる。それだけでも、ミラノを訪れる価値があるのではないだろうか。
Top image courtesy of Thom Browne
今年で63回目を迎えたミラノサローネでは、他にもさまざまなイベントが目白押しだった。本誌もサローネの現状を知るために奔走し、ひとつひとつの展示をじっくり見て回った。そのおかげで大きな収穫があった。それは、ファッション業界のトレンド志向は、何もランウェイに限ったことではないということだ。それを示すかのように、今年はミラノのファッションブランドの多くが過去の名作デザインとのコラボレーションを行っていた。
ろうそくの明かりに灯されたサン・シンプリチャーノ教会の回廊で行われたサンローラン リヴ・ドロワのプレゼンテーションでは、ジオ・ポンティがベネズエラ・カラカスのアナラとアルマンド・プランチャート夫妻宅のためにデザインし、クリエイティブ・ディレクターのアンソニー・ヴァカレロがキュレーションを務めたプレートが未来的なチューブの中に展示された。グッチの「デザイン・アンコーラ」(新たにクリエイティブ・ディレクターに就任したサバト・デ・サルノのデビューコレクション)では、マリオ・ベリーニやピエロ・ポータルッピ、ナンダ・ヴォージ、トビア・スカルパ、ガエ・アレンティ、ピエロ・カスティリオーネによる5つのアイコニックなオブジェが、ブランドの新しいシグネチャーである深みのあるチェリーレッドをまとって生まれ変わった。ロロ・ピアーナでは、インテリア部門のディレクターであるフランチェスコ・ぺルガモが2020年に世を去った建築家チニ・ボエリにオマージュを捧げた。ボエリがデザインした代表的な家具をロロ・ピアーナのラグジュアリー感あふれるファブリックで飾り、存命であれば100歳を迎えた誕生日を祝った。そしてヴェルサーチェは、ブランドの本拠地であり、スーパーモデルブームのきっかけとなった1991年のコレクションが生まれた場所でもあるパラッツォ・ヴェルサーチェを舞台に「If These Walls Could Talk」と題したショーケースを通じてホームコレクションを披露した。
この他の場所でも、さまざまなブランドによる創意工夫が凝らされたイベントが行われた。フェンディ カーサと ドルチェ&ガッバーナは、ホームコレクションに新たな作品を迎え入れた。ミュウミュウは先駆的な女性作家シビラ・アレラーモとアルバ・デ・セスペデスの著書を祝う初の文学イベントを実施。ロエベは、過去のクラフトプライズやファッションショーで共に仕事をした24人のアーティストを招き、初めての照明の制作を依頼した(その結果は、ファッションとデザインの両方において、この週のハイライトとなることが広く認められている)。
なんといってもミラノサローネ/デザインウィークの最大の魅力は、ゲストリストが存在しないこと。サローネの門戸は一般の人々にも開かれているのだ。だからこそ街は人であふれ、バーは満席となり、カーニバルのような和気あいあいとした雰囲気に包まれる。それだけでも、ミラノを訪れる価値があるのではないだろうか。
Top image courtesy of Thom Browne