新作『ゴジラ』制作発表の山崎貴監督が語る、“東京は映画という夢に直結する街”

注目の『ゴジラ』シリーズ31作目となる新作映画(タイトル未定)の製作を発表したばかりの映画監督・山崎貴が、日々新たな文化やアイデアが生み出される現在の東京について、10 マガジンだけに特別な想いを語ってくれた。

ジャケット 中に着たニット パンツ シューズ/DIOR

10代の頃、東京は僕がやりたいことが渦巻いている憧れの場所でした。当時、地元の長野では映像の仕事がしたくても何もやれることがなかった。8ミリ映画の世界でも、東京には最先端のことをやっているすごい人たちがいる。早く東京に行って、自分は果たして井の中の蛙なのかどうか確認したかった」

『ゴジラ-1.0』でアジア映画として初めて第96回 アカデミー賞Ⓡ 視覚効果賞を受賞。今や世界からも熱い注目を集める映画監督となった山崎貴だが、かつて東京は映画という夢に直結する約束の地だった。13歳の頃に『スター・ウォーズ』や『未知との遭遇』を観て、映画、中でも特撮(特殊撮影技術=SFX)の世界を志すようになり、友人たちと一緒に8ミリフィルムでSF映画の制作を始めた。やがて東京に出て映像制作プロダクション「白組」に入社、伊丹十三監督の『大病人』などでSFXを担当し夢を果たした。さらに、映画監督としてデビューすると『ALWAYS 三丁目の夕日』では日本アカデミー賞で監督賞を受賞、日本を代表する監督のひとりに名を連ねた。

自身の作品においても東京という街は相性がいい。『ALWAYS 三丁目の夕日』では、舞台となった昭和30年代の東京の下町を見事に再現したVFX技術が高く評価されたが、新たなる代表作となった『ゴジラ-1.0』でも第二次世界大戦直後の東京が舞台である。しかも、東京湾に出没したゴジラが上陸し、無惨にも破壊するのは、当時の日本で最も華やかだった街・銀座である。1954年のシリーズ第1作で和光ビルの時計塔を大破されて以来、銀座はゴジラの聖地の筆頭である。

「作品ではさまざまな時代の東京を何度も作っているのですが、銀座はとても難しい。終戦後の銀座は露店が並んでいて、空襲で焼けた後は、ベニヤなどを使った割と簡素な作りの建物と石造りのしっかりした建物が混在している。そういう場所は今どこを探してもないので、作るしかないんですけど、作る予算はないからVFXで表現したんです。ゴジラだけでなく、ゴジラが作り出す環境もVFXで作らなきゃいけないのはハードでしたね。ただ、『ALWAYS 三丁目の夕日』でも使っていた環境を表現するためのVFXとゴジラという大スターを表現するためのVFX、これまで僕のチームが取り込んできたふたつのVFXが生かせたのが良かったですね」

今日の銀座といえば、海外旅行客のメッカでもあるが、製作時には海外での公開はまったく考えになかったという。「正直、アメリカでの公開が決まりましたと言われたときは、正気ですか?と思いました。生き残った特攻隊員の敷島が主人公のとても日本的な作品だと思っていたので」『ゴジラ-1.0』は、制作陣の予想を遥かに越え、字幕映画としては異例の大ヒットとなり、アメリカにおける日本映画歴代ナンバーワンとなる興行的な成功を収めた。

「アメリカではファミリー客に人気だったと聞きました。実際に、疑似家族の物語ですし。それに、主人公のPTSDも描かれています。そのあたりも非常に共感が持てたという話も聞きました。アメリカは帰還兵が多いですからね。まったく想定していなかった反応ですけれど、それを聞いて切なくなりました。日本での戦後におけるあの感覚が、まだ現実だという人たちが世界には大勢いるのだ、と」 『ゴジラ-1.0』は、実際に日本が世界に誇る怪獣映画というだけでなく、人間ドラマの部分でも高く評価されている。

「ゴジラ映画の話が来たときに、ちょうど『エイリアン』のメイキング本を読んでいたんです。その中で、(監督の)リドリー・スコットが文芸作品を作るつもりじゃないと、こうしたホラーのようなジャンル映画はあっという間に消費されてしまうと言っていて、とてもいい言葉を聞いたな、と思いました。『エイリアン』は、人の心に響く物語性があり、単なるSFホラーではないからこそ、今でも名作として残っている。ゴジラもそういう意識を持って撮らなきゃいけないと強く思いました」

アカデミー賞関連のパーティーでは多くのセレブリティと交流した。ゴジラのフィギュアはもはや名刺代わりだった。「スピルバーグにも挨拶できたのはゴジラのおかげです。2体しか持っていっていなかったので1体しか差し上げられなかったけれど、どちらがいいか真剣に選んでいました」

新たに知り合った映画人たちが来日した際には、観光客が行かないようなディープな日本を紹介したいという。「中野ブロードウェイとかもお祭りの時に露天が並んでいるような感覚で、小さな店がごちゃごちゃしているのが不思議でとてもいいですよね。それから西武園ゆうえんちにも連れていきたいですね。『ゴジラ・ザ・ライド』というアトラクションがあるんです。僕も監督として参加しているんですが、本当に怖いんです。海外の人にはまだあまり知られていないので、ゴジラ好きの監督が来日した時に兎にも角にも行ってもらいたいです」

Profile
山崎貴
長野県出身。1986年、株式会社白組入社。ミニチュア制作を経て伊丹十三監督による『大病人』などでSFXやデジタル合成を担当後、『ジュブナイル』(00年)で映画監督デビューを果たす。2005年の『ALWAYS 三丁目の夕日』が大ヒット、第29回日本アカデミー賞全部門にノミネートされ、監督賞など12部門で最優秀賞を受賞した。ゴジラシリーズ最新作『ゴジラ-1.0』(23年)では脚本、VFX、監督を務め第96回 アカデミー賞Ⓡ 視覚効果賞を受賞。監督が視覚効果賞を受賞するのは『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリック以来55年ぶり2人目。

Photographer YUJI WATANABE
Text ATSUKO TATSUTA
Sittings editors SAORI MASUDA and TOMOMI HATA

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