ルイ・ヴィトンと村上隆のコラボアイテムを華麗に纏う、R&B界のライジング・スター、アマ・ルーが切り拓く新たな時代


Shoko Natori

ルイ・ヴィトンと村上隆が初めてコラボレーションしてから約20年の時を経た2025年春、このビッグコラボレーションのリエディション・コレクションが実現した。最先端のプリント技術を駆使した今回のコレクションは、当初よりさらに鮮やかに進化し、200点以上のルイ・ヴィトンのアイテムをカラフルに彩る。村上隆の象徴的な「モノグラム・マルチカラー」や「スーパーフラット・パンダ」のモチーフが、バッグ、ヘッドバンド、サングラス、スーツケースに、華やかに弾ける。

そんな注目のコラボアイテムの数々を新進気鋭のシンガーソングライター、アマ(Ama)こと、アマ・ルー(Ama Lou)が華麗に纏った。ここではイギリス版の10 Magazine 74号「MUSIC, TALENT, CREATIVE」(2025年3月18日発売)に掲載されたロングインタビューを紹介する。

シンガーソングライターのアマ(Ama)は、目まぐるしく時空をさまよっている。そんな彼女にスケジュールを調整してもらい、取材のために1時間だけ割いてもらうのは至難の業だ。2週間以上におよぶスケジュール調整の結果、ようやくオンライン取材が実現した。生まれ故郷であるロンドン東部のハックニーとノース・ロンドン、そして エンタメのメッカことロサンゼルスを行き来しながら生活しているアマの姿は、この日、ロンドンにもロサンゼルスにもなかった。

「マイアミにいるの!」と、画面から興奮した声が響く。ロンドンから4,400マイル以上離れた場所で、アマは一日を始めようとしていた。「カメラをオンにしていいですか?」と尋ねると、アマは「汗だくだから、嫌だな」とはにかみながら言った。ランニングから戻ったばかりなのだ。この取材が終わったら、次の仕事に向かう。ということは、時間通りに取材を終えなければいけない。「アマが遅刻したら、レーベルの人たちに怒られるのは私なんです」と、同席した広報担当のデイジーが口を挟んだ。

リスナーたちは、最近のアマの音楽活動──正確にはアマの活動の少なさに不満を感じているようだ。それを象徴するように、今年の1月にファンのひとりが「アマは、去年の11月からSNSに何も投稿していない……いったいどこにいるの?」とぼやいている。それは、アマが次回作のレコーディングの準備に没頭しているからだ。

「自分が本当に好きな音楽を作っている」と語る彼女からは、次回作への意欲がありありと伝わってくる。だが、26歳の若きシンガーソングライターにとってここまでの道のりは、決して平坦なものではなかった。大絶賛されたデビューアルバム『I Came Home Late』(2023年)以来、アマは目標を見失ってしまったのだ。「音楽が前ほど楽しくなくなった」と、アマは率直に胸の内を明かした。

トップス パンツ ピアス(上・中) イヤカフ/LOUIS VUITTON バッグ サンダル ピアス(下) スーツケース/LOUIS VUITTON × MURAKAMI 

アマが初めて曲を書いたのは11歳のとき。それ以来、音楽は「自分を映し出すための媒体である」という思いを胸に、曲を書き続けてきた。だが、デビューアルバムをリリースしてから、音楽を作ることの意味がわからなくなった。「何か起きるたびに音楽に引き寄せられてきた。私にとって音楽は、安全な場所なの。それなのに、デビューアルバム後は自分が空っぽになったような気分だった」とアマは言う。

そんな彼女は、「手放す」(本人の言葉を借りれば「観念する」)という行為を通じて、自己規制やスケジュール管理、締め切り、レーベルやマネージメント側の要望といったものから距離をとることにした。「自分という感覚を失ってしまった。それだけでなく、音楽をつくることの意味もわからなくなった。自分を“調整し直す”ことが必要だった。喜怒哀楽がうまく表現できなくなってしまったの」とアマは言う。

これまで自分が築き上げたすべてのものから離れるのは、決して簡単なことではなかった。ポジティブを自認するアマは、普段は感謝の気持ちとともに毎日を送り、アーティストとしてのひとつひとつの瞬間を大切にしている。それができなくなったことに危機感を抱き、行動を起こすことにしたのだ。

これについてアマは、「一見、理にかなっていないような方法を試すことにした」と話す。リスク(損失)vsリワード(報酬)という構図の信奉者でもある彼女は、数年前に『I Came Home Late』を作った自分から、ずいぶん遠いところにきてしまったと感じている。「もはや、あのころの自分とはまったくの別人」。そう言いながらもすべてを手放し、自由と自発性との交差点でただ“存在できること”に感謝している。

全15曲を収録したアルバム『I Came Home Late』は、驚くほど成熟したサウンドで瞬く間にリスナーを虜にしたかと思うと、次の瞬間にシンガーソングライターとしてのアマの類まれなる才能を見せつけてくる。

インディー感あふれるポップロック風の「Car Parts」と、シンセサイザーから放たれるエレクトロニックサウンドが特徴的な「Silence」に挟まれているのは、R&Bとソフトロックとソウルが融け合った「Tokyo Cowboy」。アマは初期EPのさまざまな要素を織り交ぜながら、ひとつひとつの曲が宇宙のなかの“惑星”としての存在感をもち、クレッシェンドのように高まっていくアルバムを完成させた。

アマは、このアルバムにすべてを注いだという。そしてしばらく考え込むと、「自分の作品を悪く言っているわけではないの。これは批判じゃないけど、実際は詰め込みすぎたところもある」と、ニヤリと笑いながら続けた。「耳から入ってくる情報が多すぎるんだよね」。そんな彼女は、制作中に自分に課した、ポップス寄りの創作プロセスの苦労を次のように振り返った。「途中で一息入れなければいけないくらい、大変だった」

自分にプレッシャーを与える性格は、いろんなことを自由に探求できた幼少期に形成された。ギニア人の父とイギリス人の母とのあいだに生まれたアマと姉マハリアは、幼いころから自立性を重んじる教育を受けてきた。「両親は私たちに、自分が将来どんな仕事に就き、どんな人間になりたいのかを考える機会を与えてくれた。それを試す場も、いくらでもあった。おかげで姉も私も、仕事には手を抜けない人間になっちゃった」。

だが、その成果は瞬く間に現れた。2018 年には1st EP「DDD」をリリースし、シンガーソングライターのジョルジャ・スミスとともにツアーを行うまでになったのだ。その一方で、より独創的なソングライティングを行うにあたり、「突き進まなければいけない」というプレッシャーを感じ続けていた。

仕事から離れていた一年間、アマはシンプルなアプローチで緊迫した創作プロセスに対抗してきた。「子どもの頃にインスピレーションを得たような音楽を作りたい」。こう言うと、次のように続けた。「次回作は、最初から最後まで聴きやすいアルバムにしたい。アルバムがリピートされていても気づかないくらい、さらりと聴けるものにしたいの」

ドレス パンツ ピアス(上・中) イヤカフ/LOUIS VUITTON バッグ ピアス(下)/LOUIS VUITTON × MURAKAMI

シンガーソングライターとしての技術がますます洗練されていくことに加えて、アマ本人も自分自身の創作プロセスの影響を受けてきた。その一方で、休むことの大切さを声高に訴えることも忘れない。というのも、休息から生まれた視覚的なパターンが次のプロジェクトのサウンドを形づくると考えているからだ。

アルプスでのスキー休暇は、まさにそれを象徴している。アルプス滞在中、アマは雪への深い愛着を感じた。「雪や氷の色合いと、それらがいろんなものに投じる光に夢中なの」と話す。こうした環境的な要素も、次回作のサウンドに多大なる影響を与えるのだ。「[次回作には]大好きなラップをモチーフにした、飛び跳ねるようなサウンドを取り入れるつもり。このふたつを組み合わせようと思ったのは、まだ誰もやっていないから」

アマがラップに挑戦するのは、今回が初めてではない。ラップは、彼女のソングライティングやうねるようなグルーヴ、そして抑揚に深く刻み込まれている。たとえば、2nd EP『Ama, Who?』(2019年)に収録されているシングル「NORTHSIDE」では、ベテランラッパーさながらのアドリブを披露したかと思えば、無関心とウザさのあいだの絶妙なバランスを維持したラップを繰り広げる。

それに対し、アマが本当の意味でラップというジャンルを自分のものにしているのが、バイラルヒットとなったEP『AT LEAST WE HAVE THIS』の収録曲「Same Old Ways」だ。この曲を歌うアマは生意気で自信満々で、さまざまなスラングを織り交ぜながら驚くほどロンドンらしい、キレが良くて楽しいリリックを繰り出している。これについてアマは、「たまには、こういう荒削りな感じも必要だから」と言った。まさにそれがラップの魅力なのだが、ラップのアティテュードは誰もが体得できるものではない。

アマは「ラップの魅力は、そのリアルさにある」と語り、自身の言葉選びが「白人的」であると言って笑った。これらのラップは、アマの緻密なソングライティングを際立たせている。だが、アマはなにもラッパーの真似をしたり、ラッパーになろうとしているわけではない。あくまでラップは、パフォーマーとしてのスキルを磨くためのツールなのだ。

一見、音楽から離れて生活しているアマだが、ファッションに対する好奇心はいまも健在だ。それどころか、その思いは進化し続けている。アウトドアブランド、サロモン(Salomon)のアンバサダーに抜擢されたことに加えて、いまではシャネルをはじめとするトップメゾンとの仕事もこなす。

今回のストーリーでは、ルイ・ヴィトンと村上隆がタッグを組んだコレクション「LOUIS VUITTON X MURAKAMI」のアイテムとともに撮影に臨んでもらった。アマのファッション愛は、広告キャンペーンやレッドカーペットにとどまらない。「服に夢中だけど、ファッションやテキスタイルの歴史も大好き。服はすべての人にとって何かを象徴するもの。私たちは、石器時代からずっとそうやって服を着てきたの」と語る彼女のファッションに対するアプローチは、音楽へのアプローチと同じようにクリアで鋭い。

独自の世界観を築き、R&Bを自由に解釈できる才能に加えて、アマは時おり、曲のなかに謎めいた歌詞を盛り込むことを自覚している。「長年、こうした歌詞の背後に隠れてきたような気がする」と、「DDD」を引き合いに出し、この作品に取り組んでいた当時は、自分でも何を伝えようとしているのかわからないときがあったことを明かした。

「私の歌詞は、暗号みたいに謎めいているの。ライブ会場でお客さんに『私は、この歌詞をこういうふうに解釈したんだけど……』って言われることがあるんだけど、そのたびに、私の歌詞がやっと誰かに届いたような気がして、嬉しくなる」。焼けた血や夕日など、彼女の歌詞に登場する言葉には明確な思考の流れというものは存在しないが、その意味を理解することは難しくない。自由な解釈を歓迎する彼女は、リスナーがわかるように、曲のなかにその意味を隠しているのだ。

アーティストからファンという一方通行の情報発信が常識とされる音楽界において、あまり表に出ないアマの姿勢は、さまざまな誤解を生んだ。アマは、スタッフの採用面接で候補者と面談したときに「冷たい人だと思っていました」と言われたときのことをあげた。笑いながらも、彼女は自分に対するあらぬ誤解を温かく受け入れるようにしている。

「世間は、私のことを移り気で、流れに身を任せて好きなことをする、ミステリアスでメディア嫌いのアーティストだと思っているみたい。でも、本当の私は典型的なA型人間」とアマは言った。

ドレス シューズ ピアス(上・中) イヤカフ/LOUIS VUITTON バッグ バッグチャーム ヘアピン ピアス(下)/LOUIS VUITTON × MURAKAMI

約束の1時間が終わろうとしていた。画面の向こう側にいるアマは自信に満ちていて、チャーミングで大胆で楽しい人だ。同時に、どこか隠れた側面を持っている。ミステリアスなところもあるが、それはジャンルの垣根を超えてきた彼女のキャリアの反動ともいえる。それにアマは、昔の苦労話をすることには興味がない。

「アーティストのインタビューで、気の滅入るような悲しい話を聞きたい人なんていないと思うの。それに私は、ずっと怒っているようなタイプじゃない」。だが、歌詞の世界においては、さらなる透明性を追求したいと考えている。「新作をリリースするときは、『これが私です』みたいな形で世に送り出したい」と、アマは心を決めたように言った。

「世間が私のことをどう思おうと、私は気にしない。でもここからの私は、より誠実になるつもり。自分のストーリーをもう少し具体的に語りたいと思っている。自分が心から共感できることを語るの。謎めいた人でいるのは、もう終わりにしたいから」

Photographer ZACH APO-TSANG
Fashion Editor SOPHIA NEOPHITOU
Talent AMA
Text CLAUDIA CROFT

Dancer KOJO HAMMOND at AMCK DANCE
Hair ISSAC POLEON at The Wall Group using BUMBLE AND BUMBLE.
Make-up MATA MARIELLE at The Wall Group using HOURGLASS Cosmetics
Movement director ED MUNRO at Canvas Represents
Digital operator ANDREW BROADHURST
Photographer’s assistant JOHN NEATE
Fashion assistant’s GEORGIA EDWARDS and SASKIA LEWIS
Hair assistant LEE-ANNE WILLOUX
Production ZAC APOSTOLOU
Special thanks to AMELIA WHITE

Translator SHOKO NATORI
Digital Editor MIKA MUKAIYAMA

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