男らしさとはいったい何だろう。10マガジンに作品を寄稿しているアーティストのデビッド・ロックが、英国エセックス州コルチェスターのアートギャラリー「Firstsite」で開催された自身初の個展を通じて、この一筋縄にいかない問いに挑んだ。
「David Lock: In-between Us」と命名された本展では、油絵や大規模なビニールコラージュ、水彩画からなる20点の作品が一堂に会した。これらの作品は、過去の厳格なジェンダー概念から、現代の主流メディアにおける男性像への期待まで、男らしさのパフォーマティビティ(遂行性。性やジェンダーと呼ばれるものを自然なものとして受け入れさせるための手段)を探求している。さまざまな素材や媒体を用いて作られたこれらの作品は、男らしさのエレガントなモザイクであるいっぽうで、観る者に隠された歴史に目を向けさせ、多様で多面的なものとして男性の身体を再想像するよう問いかける。
Photography by Jayne Lloyd
ファッション誌の切り抜き写真を使った作品から、絵画のベースとなるコラージュの制作まで、ロックは常に男らしさの多面的で流動的、そして変化し続ける遂行性を描いてきた。展示されている作品は、ローマのブリティッシュスクールにて行われた古代ローマ時代の遺物に関するロックの過去の研究から着想を得ており、古代ローマ時代にまでさかのぼる豊かな歴史をもつコルチェスターにあるこのアートギャラリーにいかにもふさわしい。このギャラリーには「ベリーフィールド・モザイク」(現在建物が建っている場所で1923年に発掘された古代ローマ時代の遺物)という作品も所蔵されている。ロンドンを拠点に活動するロックは、古代ローマや古典的な彫像への永続的な憧れを現代的なイメージや歴史上の男性の身体表現と重ね合わせながら表現した。コルチェスター博物館に所蔵されている古美術品から着想を得た色彩ブロックを作品の背景にしたことで、これらの背景は描かれた枠を超えたイメージの拡張を示唆する入口や扉の役割を果たしている。
When You Wake (Scott)
本展では、これまでに個人の顧客に依頼されて制作された6つの新作が初めて展示されるなど、内容という意味でも親密さが醸成されている。見どころのひとつは 「Saffron and Aspen」という作品。1999年に同性愛者の男性として初めて代理出産によって子どもをもうけたバリー・ドリューイット・バーロウと元パートナーのトニーが依頼したもので、彼らの長男が描かれている。タブロイド紙に批判された一家の過去は、絵のコラージュ制作の過程やロックの影響と見事に呼応している。その結果、近代化する家族構造のアイコンとして認識されるようになったカップルを、美しく祝福する作品が完成した。
この他の作品は、クィアカルチャーにおける労働者階級のメンズファッションの影響を探求している。 それは「When You Wake(Scott)」において特に顕著である。同作の構図は、顔や身体のさまざまなパーツがコラージュのように重ねられ、男性の身体を、私たちがどのように選択しようとも、絶えず再構築され、演じられる可能性の集合として提示することで、ジェンダーのパフォーマティビティのさまざまなニュアンスを視覚化している。ロックの代表作である「Misfit」シリーズも、本誌のデピュティー・エディターを務めるポール・トナーの「The Boys That Swoosh: Tracksuits, Gay Scallies and Lad Drag」(10 Men 57号「NEW, DAILY, UNIFORM」からの抜粋)とともに展示され、クィアなコンテクストにおけるスポーツウェアをの意味を考察している。
Misfit (Vacation)
from left: T-Shirt, Grey Briefs and Sports Socks; Smoking-in-briefs