チェリスト、シンガー、そしてグッチのアイコン的存在であるケルシー・ルー。クリエイティブなプロセスの中でどのように自分を見失わずにいるのか、そして「立ち止まること」がいかに静かな抵抗になり得るのかを語ってくれた。
シャツ パンツ ベルト/GUCCI
グッチの2025年クルーズコレクション「We Will Always Have London」の広告キャンペーンは、写真界のレジェンド、ナン・ゴールディンのレンズを通して、ロンドンのロマンティックでムーディーな姿を切り取ったものだ。クリムゾンレッドのバー、ブラックキャブの後部座席―シックなシーンが次々と映し出される。その同じ妖艶な空気感をまとった音楽を奏でるのが、このキャンペーンの主役の一人であるチェリスト兼シンガーのケルシー・ルーだ。
ノースカロライナ出身の彼女は、クラシックにインスパイアされたアヴァン・ポップなサウンドで2010年代後半のエクスペリメンタル・シーンに名を馳せ、Wetのツアーでオープニングを務めたほか、2016年に幻想的なEP『Church』をリリース。そして3年後には、耽美で音の豊かさが際立つスタジオアルバム『Blood』を発表し、独自の世界観を確立した。
ドレス/GUCCI
「私の音楽を聴くことは、自分自身の内側へと深く潜ることなの」とルーは語る。「表面的な音楽じゃない。聴けば旅に出るようなもの。いろんなフレーバーが詰まってる。まるでミリオンレイヤーケーキみたいよ」
この多層的な音楽性によって、ソランジュ、ケレラ、ブラッド・オレンジといったアーティストたちとのコラボレーションが実現した。しかし、ルーがこの地位に辿り着くまでの道のりは決して平坦ではなかった。偉大なアーティストの多くがそうであるように、彼女もまた山あり谷ありの人生を生きてきたのだ。
ドレス シューズ バッグ/GUCCI
敬虔なエホバの証人の家庭に育ち、その後、ストリッパーや大麻のディーラーとして生計を立てる時期を経験。さらにはニュージャージー州ホーボーケンの革工場に無断居住していたこともあった。そうした試練の果てに、いま彼女はグッチの衣装をまとい、洗練されたファッションストーリーの主役を務めている。その意味を、彼女は決して軽く受け止めてはいない。
「グッチの服には、リズムの中に音楽性を感じるの」とルーは言う。グッチは、音楽を単なる付加要素ではなく、コレクションのプレゼンテーションにおける重要な要素として扱っているという。ルーのファッションスタイルは、その日の気分によってリラックス感のある装いからドラマティックなものまで大きく振れる。インタビュー当日の彼女は、グッチのブラックタンクトップを着用していた。その姿は、超グラマラスな撮影時の彼女とは対照的で、まるでブルックリンの自宅でくつろぐかのようなリラックスしたルックだった。
ドレス ブーツ/GUCCI
ルーはコスチューム(衣装)が大好きだ。ニューヨークのとあるヴィンテージショップ(店名は「秘密」と彼女は意地悪く隠す)は、オペラ公演で使用された衣装を専門に取り扱っているという。
撮影では、彼女はいくつものキャラクターを演じた。「自由で幸福感に満ちた人、アントニオーニ映画のモニカ・ヴィッティのような人、セクシーで少しダークな人」と彼女は語る。「自己の中にあるエロティシズムやセンシュアリティを見つけること―それが私がいま探求していることなの」
ジャンプスーツ 頭に巻いたスカーフ ブーツ/GUCCI
リスナーは、彼女の「Poor Fake」(ドナ・サマーとラナ・デル・レイの要素を併せ持つような遊び心のある楽曲)や、「Morning Dew」(夢幻的な切なさを湛えた楽曲)から、ソウルフルで幻想的なアーティスト像を思い浮かべるかもしれない。そして、それは彼女自身のパーソナリティにも重なる。
彼女は徹底的にオープンな人間であり、今年に入ってから霧のように心を覆う憂鬱を感じていることも率直に語る。シャドウワーク(心の影の部分に向き合う心理的探究)、占星術に加えて、パンデミック後の急速な社会の復旧に対する「一度立ち止まる必要性」などについて哲学的に考察する。言葉を慎重に選びながら話し、本当に自分を正しく表現できたかを確かめるために、翌日もう一度インタビューを申し込むほどの誠実さを持つ。
ジャンプスーツ 頭に巻いたスカーフ ブーツ/GUCCI
彼女にとって、「自分のヴィジョンに忠実であること」は、「常に前進し、絶えず作品を生み出し続けることを求める音楽業界に対する抵抗」なのだ。過去2年間で、彼女は『Earth Mama』と『Daughters』という2本の映画の音楽を手がけた。どちらもブラックコミュニティの女性や少女たちが直面する問題―養護施設制度、薬物依存、投獄―を描いた作品で、映画祭で高い評価を得ている。
しかし、新たな音楽については、いまだ慎重な姿勢を崩さない。「いまは、これまでの時期とは比べものにならないほど明確なヴィジョンを持っている」と彼女は語る。いまは静かに実験を重ね、未来の豊かな音楽を育むための肥沃な土壌を耕している段階なのだ。
トップ シューズ/GUCCI
「次の作品を作るのに5年の歳月がかかろうと、5カ月で完成しようと、それは私の自由よ」と彼女は言う。「結局のところ、私は自分自身を支える存在。『Blood』をリリースしてからいまに至るまでの時間は、直感に耳を傾け、自分を信じ、それを支えるチームを築くためのものだったの」
トップ シューズ/GUCCI
Photographer THIBAULT THEODORE
Fashion Editor CLAIRE SULLIVAN
Text CHARLOTTE COLLINS
Talent KELSEY LU
Hair EVANIE FRAUSTO
Make-up RAISA FLOWERS
SFX make-up QETO CHANTADZE
Manicurist SONYA MEESH
Background AARON WELLS, AMADIAH YEHUDAH, and KEISHAN
Movement director/background ZERINA TYE
Prop stylist BRIAN LEE
Photographer’s assistants PHILLIP LEWIS, ELENA SANTOLAYA, and ERIC BRYDBORD
Fashion assistants CLAIRE WISEMAN
Fashion intern FINN BELANGER
Hair assistant COURTNEY PEAK
Prop assistant ELENA LORENZI
Production MINA
Production assistants LUIS DE JESUS and SNAKE GARCIA