冨永愛、森星、UTAら人気モデルが所属するキャリアステージのサポートを行う、株式会社「クロスオーバー」のCEOで起業家の陳 恵晴。「日本のファッション界をもっと活性化したい」という想いを掲げる彼が、世界中のクリエイターたちを惹きつけ、日々新たな文化やアイデアが生まれている現在の“東京”について、ファッション業界の未来を見据えながら、10 マガジンだけに特別な想いを語ってくれた。
10年間在籍した大手のモデルエージェンシーから独立し、 2023年新たなエージェンシー「クロスオーバー」を設立した陳恵晴。マネジメント業務だけにとどまらず、所属するモデルやクリエイターの新たな可能性を広げていくことを掲げたこの新会社には冨永愛や森星、UTAらが在籍。「境界を越えて交じり合うこと」を意味するこの社名には、「ジャンルの垣根を越え、クリエイター同士の活発な交流を目指す」という決意が込められている。
消費の早いモデル業界において、10年を超えて活躍できる存在など、本当に一握りだ。それを見越しているからこそ、クロスオーバーがビジネスの中心に据えるのは、所属するモデルやクリエイターそれぞれの「ポテンシャルを最大限に活かせること」と「ライフワークに向けてサポートしていくこと」。息の長いモデルを育てるためには、プロデューサーの視点を持つことが必要なのだと言う。
「好奇心を持って学ぶ精神を大切にしています。様々な環境に身を置いて感性を磨き、国、性別、年齢関係なく幅広くコミュニケーションを取っていると、アイディアも湧いてくるし、新たな視点に気付くこともある。そして得たものを、日本のマーケットや自分たちのスタイルに合うように咀嚼して、所属するモデルたちの性格やポテンシャルに合わせて、誰と、どこで、どんなことをするのがベストかを構想し発展させていくのが、今後のエージェントの在り方になってくると思います。個性がフォーカスされる時代だからこそ、”テーラーメード”のマネジメントが必要になるんです」
氏が10年来マネジメントを務める森星は、自身のライフワークとして、日本の伝統文化のユニークさや、地の利や恵みを生かしたサステナブルな魅力を、現代の生活に馴染むよう再構築し発信するプロジェクト、「テフテフ」をスタートした。
「他人事ではなく一緒に取り組んでいく。いざ本人たちのやりたいことが見つかった時に、フットワーク軽くバックアップできるよう、こちらも万全の体制でいないといけない。マネジメントとしてのリスクヘッジもしますし、本人の希望に応じて、足がかりとなる知識や人材を揃え、環境を整える。失敗に終わるパターンもありますが、やってみないとわからないし、やってみたからこそ次に生かせる要素が見つかることもある。
パッションを持って自分のライフワークに向き合えば、きっとどんな挫折があっても続けられると思うんです。それに、彼女たちが楽しそうにアクションを起こしている姿を発信することで、それを見た若い世代に「次は自分も!」と思ってもらえるかもしれない。日本の未来にも繋がる可能性があるし、責任重大だと思っています」
独立を後押ししたのは、「日本のファッション界をもっと活性化したい」という願いだった。廃刊・休刊が相次ぐ日本の出版業界。クリエイションが縮小していくことに危機感を抱いていたのだという。
「これからの時代は、柔軟性を持って掛け合わせていくことが重要になると思います。今までは縦割り社会が色濃く、ファッション業界はファッション業界だけで完結していたけれど、例えばフードとファッションとか、実は相性が良くて新たなケミストリーが生まれるケースだってある。ただ、別ジャンルをミックスしたハイブリッド型を作ろうにも、お互いの“言語”がわからないとなかなか手を出せませんよね。
“通訳”みたいな人が間に入れば、よりスムーズに物事が進められると思うんです。自分が”通訳者”になって人と人を繋げられたら、スモールチェンジかもしれないけど、業界を変えていくきっかけにもなれるはず。日本経済は元気がないと言われているけれど、それを救うのは日本のクリエイション! 人と人とを繋ぐことで、クリエイターが挑戦できる環境作りに貢献していきたいと思っています」
Profile
陳 恵晴/KEI CHEN
起業家。マレーシア人の父と台湾人の母を持ち、マレーシアで育つ。大学進学を機に来日。大手モデルエージェンシーのマネージャーとして、森星をはじめ多くのトップモデルを育てる。 2023年に設立した株式会社「クロスオーバー」には、森星のほか、冨永愛やUTAらが在籍。モデル、クリエイター、アーティストのマネージメントだけでなく、プロデュース、広報、スキルに合わせた適切なキャリアを切り拓くためのトレーニング、人材マッチング、そしてセカンドステージを成功に導くためのサポートの業務など多角的に展開する。
Photographer YUJI WATANABE
Text TOMOMI HATA
Sittings Editors SAORI MASUDA and TOMOMI HATA
Digital Editor MIKA MUKAIYAMA