映画『グランメゾン・パリ』の料理監修をした小林圭シェフが、東京で目指す新境地

2024年12月30日(月)に公開した映画『グランメゾン・パリ』の料理監修を行ったパリのトップシェフである小林圭。5年連続ミシュラン3つ星を獲得している彼が、世界中から一流のクリエイター達を惹きつける磁場であり、日々新たな文化やアイデアが生み出される現在の東京について、10 マガジンだけに特別な想いを語ってくれた。

2020年、アジア人シェフとして初めてフランスでミシュランの3つ星獲得という快挙を達成した小林圭。パリでオーナーシェフを務める「レストラン・ケイ」は、食材を生かした繊細な手法が高く評価され、以来5年連続でその栄誉を守り続けている。繊細で奥深く、そして力強い風味と料理、そしてその料理を芸術の域まで高める卓越した盛り付けセンスで、一皿一皿で驚きと感動がつまった小宇宙を提供する。独創的な創作の数々だが、意外にもアイデアは日常生活の延長から得ることも多いと言う。

「パリは芸術の街なので、普段歩いてるときでも建物や町並みを見て刺激をもらっています。絵画・ファッションなども大きなヒントですし、好きで休みの日にもよく見ています。川久保玲さんはじめコムデギャルソンの日本人デザイナーら自ら何かを作り出す人、他にも例えばピカソのように熟成した模写の技術を持ちながらそれを崩して独自の世界観を作っていける人を魅力に思います」

2024年は自身の名を冠した3軒のレストランが東京にオープン。中でも「ケイ・コレクション・パリ」は、アラカルトでオーダーできる自由さで大きな評判を呼んでいる。2230分以降のバータイムにも気の利いた洒落たおつまみを提供し、ゲストの都合にフィットした日常的により使い勝手のいいスタイルだ。虎ノ門ヒルズステーションタワーの49階「TOKYO NODE」の一画に位置し、地上250mから東京の摩天楼のパノラマビューが見渡せるルーフトップテラスにはバースペースを併設。隣接のインフィニティプールが、非日常の開放感を演出する「大人の社交場」だ。

複雑に凝ったフランス料理の世界で頂点を極めた小林圭だが、ここで提案するのはグリル&ガストロノミー。メインとなるグリルはシンプルゆえ、食材へのこだわりはひとしおだ。世界のあらゆる食材が簡単に手に入る現代。だが「食材にあまり旅をさせないことが重要だ」と言う。その土地にある最良で最高の食材を、一番美味しい状態で使うのが一番だという信念から、肉から魚介、野菜にいたるまで、食材に応じて1度単位で火入れを見極め、素材の味を最大限に引き出す。

「陸の食材でも硬水・軟水を使い分けるだけで、全然違うものが出来上がる。魚のスズキひとつをとっても、産地によって塩の濃度違うのだから、完全に別物と考えた方がいい。“◯◯とすべき”といったことに囚われず、日本の良さを最大限生かせるように表現したいと思っています。食材と対話することで生まれてくるインスピレーションや学びがあるんです。命を最大限に輝かせてあげる調理法を見つけ出すことを常に意識しています。素材に対して恥じない仕事をして、このレストランでの体験すべてがお客さまの心を満たすものであってほしいと日々努力を積んでいます」

Profile
小林圭
長野県生まれ。ドキュメンタリー番組でアラン・シャペルのコックコート姿を見ことをきっかけに、フレンチシェフを志す。地元のレストランで修業を積んだのち、21歳で渡仏。ジル・グジョン、アラン・デュカスなど、名シェフのもとで研鑽を積み、2011年にパリ1区に「レストラン・ケイ」をオープン。2012年ミシュラン1星、20172つ星。2020年に3つ星を獲得。以降5年間にわたってその座をキープし続けている。2024年公開の映画『グランメゾン・パリ』では、料理監修を手がける。

Photographer YUJI WATANABE
Text TOMOMI HATA
Sittings editors SAORI MASUDA and TOMOMI HATA
Special thanks to KEI COLLECTION PARIS

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