ファッション業界は才能ある若手の起用を重要視する。インキュベーターや奨学金、財団、そして注目のデザイナーに与えられるファッションウィークのプレゼンテーションないしショー枠といったものはすべて、新たな視点と革新的なアプローチでファッションに取り組む次世代を歓迎するためにある。クリエイティビティが停滞し、埃をかぶるようなことがあれば、それはファッション界における才能の枯渇のはじまりである。若手デザイナーの新しいアイデアは、まさに必要不可欠なのだ。彼らのアイデアは、枠組みや官僚主義によって植え付けられた型にはまらない、どこまでも幻想的なアイデアであることが多い。ここでは、もっとも幻想的なアイデアを抱くことを恐れない、この業界の未来を担う注目の若手デザイナー10人を紹介する。
ビンロン・ホワン(BINGRONG HUANG)
あふれんばかりのチュールや生地からなる、超現実的でゴシックな世界に飛び込むところを想像してほしい。24歳のビンロン・ホアンは、まるで別世界から来たようなデザインに生命を吹き込むことで、こうした世界を具現化した。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(LCF)でファッションデザイン技術(ウィメンズウェア)を学ぶホアンは、AI(人工知能)と3Dプリント、そして伝統的な技術を巧みに融合させ、プロジェクトごとに前衛的な美学に磨きをかけている。文学や映画にインスパイアされた彼女の作品は、現代社会における個人主義の死について考察し、逆境に直面した人間の回復力を象徴する、美しく構築されたパーツを用いる。こうした示唆に富むテーマに焦点を置きながら、ホアンは人生経験を服に注ぎ込み、感情を揺さぶる幻想的なコレクションを生み出しているのだ。
ご自身のデザイン哲学をひと言で表してください。
社会の抑圧と人間感情との間の、ドラマチックな緊張関係。
この号では、夢を見ることを恐れない若手デザイナーたちに焦点を置いています。ファッションをこよなく愛する若きデザイナーとして、ご自身の想像力を掻き立てたデザイナーを挙げてください。
アレキサンダー・マックイーンですね。自身の苦悩や社会から受け入れられない感情を作品に込めるというアプローチに感銘を受けました。私は、マックイーンの経験に深く共感しています。デザインは、彼の不満と彼自身の道のりを表現する唯一のはけ口だったのです。マックイーンのドキュメンタリーを見るたびに、心の中にあるさまざまな想いが呼び起こされ、私自身の感情的な体験と共鳴するような、表現力豊かなデザインを求める気持ちが高まります。
ご自身にとって、ファンタジーを喚起させるようなファッションを作ることの重要性とは?
ファンタジーは、未来を思い描く力に火をつけ、新たなフロンティアを開拓する意欲を育むためのカギです。想像力を刺激することは、デザイナーとその作品への深い探究心を呼び起こすだけでなく、オーディエンスの好奇心をより一層育むことでもあります。ファンタジーを喚起させる作品を作ることで、より興味をそそる前衛的な作品を作りたい、という意欲が湧いてくるのです。
ファッションがご自身にとって欠かせない、独創的な表現方法である理由は?
ファッションに対する深い情熱があるからこそ、新しい作品を作る過程を純粋に楽しいと思えるのです。ファッションはコストや払わなければならない犠牲、不眠不休の日々に関係なく、私が執拗に追い求めるものです。生地と関わり、デザインをスケッチしていると、不思議なエネルギーの高まりを感じます。実験の段階では、それが偶然の発見であれ、スムーズに展開するものであれ、数え切れないほどの可能性を提示することで私を魅了します。
ジャオイー・ユー(ZHAOYI YU)
ジャオイー・ユーのInstagramを見ると、まずは「Next Generation Couture(次世代のクチュール)」という文言が目に飛び込んでくる。デザイナーとしての経験はまだ浅いが、この言葉は真実味を帯びている。ロマンティシズムに気まぐれなツイストを加えたデミ・クチュールを手がけるユーは、2023年にLCFでファッションデザイン技術(ウィメンズウェア)を学び、修士号を取得した。職人としての天性の才能を再発見した25歳のユーは、デビューコレクション「Out of Body」において、自身が抱えるADHD(注意欠陥・多動症)との闘いを探求した。すでに著名な出版物にも取り上げられ、そのデザインの動きとエレガンスは、はやくもファッション界のトレンドセッターたちの注目を集めている。
ご自身のデザイン哲学をひと言で表してください。
はかなさの美。
この号では、夢を見ることを恐れない若手デザイナーたちに焦点を置いています。ファッションをこよなく愛する若きデザイナーとして、ご自身の想像力を掻き立てたデザイナーを挙げてください。
エルザ・スキャパレリです。スキャパレリはロマンチックな理想主義者であり、創作への情熱や動機はいかなるイデオロギーとも無縁でした。彼女のデザインもまた、自然の法則とは無関係です。その超現実的な世界はアイロニーに満ちていて、常に正確で論理的であるために、現代性と極端なロマンスが見事に融合しているのです。
ご自身にとって、ファンタジーを喚起させるようなファッションを作ることの重要性とは?
私は、自分のクリエイションをアートのようなものとして見ています。というのも、それらは作り手の経験や感情を如実に反映するものだからです。経験や感情は、いわゆる「作者の刻印」のようなものですね。私の作品が人々のファンタジーを呼び起こすことを願っています。ファンタジーを通して、人々はただ売れるのを待っている商品を見るのではなく、私が表現したい美と共鳴することができるのですから。
ファッションがご自身にとって欠かせない、独創的な表現方法である理由は?
私は、子どもの頃に子ども服のモデルをしていました。ファッションショーやスタジオでの経験が心に深く刻まれると同時に、服に対する愛着も生まれました。私の作品は人間の感情に基づいているので、人々と交流し、生活に溶け込むことができれば嬉しいです。
ティルダ・フラー(TILDA FULLER)
毎年夏になると、セントラル・セント・マーチンズ美術大学(CSM)のファッション学部の修士課程の学生たちの卒業コレクションを見るために、業界関係者がキングス・クロスのグラナリー・スクエアに集結しては、フレッシュな才能を発掘しようとする。2023年は、同校でプリント技術を学んだティルダ・フラーに熱い視線が集まった。フラーのデビューコレクションは、伝統的に女性が支配してきた工芸が過小評価されていることを追求したもので、持続可能な素材をパッチワークや刺繍に使い、キッチュで反抗的で、奇抜なシルエットを表現した。複数のルックにアコーディオンの形を取り入れた22歳の彼女は、女性の沈黙を中心とした歴史的な風習を巧みに活用した。さらには、同校の在校生であるアイザック・キュリエルとタッグを組み、レースをふんだんに使ったヘッドピースを制作。壮麗でありながらも荒々しい作品を完成させた。熟考を重ねた、成熟したデザインへのアプローチが特長のデザイナーである。
ご自身のデザイン哲学をひと言で表してください。
装飾的なもの、働く女性たちの手、女性、奇抜さを讃えること。
この号では、夢を見ることを恐れない若手デザイナーたちに焦点を置いています。ファッションをこよなく愛する若きデザイナーとして、ご自身の想像力を掻き立てたデザイナーを挙げてください。
ドリス・ヴァン・ノッテンやスキャパレリはもちろん、イリス・ヴァン・ヘルペンの作品が昔から大好きです。プリントや色を使ってシルエットを形づくり、超現実的なストーリーを語るところがとても気に入っています。チョポヴァ・ロウエナは私が尊敬するブランドで、デザイナーたちは素晴らしい服を作り、とても新鮮で重要な視点を持っていると思います。でも、最大のインスピレーション源は、同業者や新進デザイナーの革新性と先進的なアプローチです。こうした人々の成長と、私たち全員が変化を遂げていくのを見るのが楽しみです。
ご自身にとって、ファンタジーを喚起させるようなファッションを作ることの重要性とは?
私はいつも、プリントと色をふんだんに使って、楽しみながらデザインをしています。私が作るシルエットは、プリントによって命が吹き込まれます。プリントとシルエットとの間に幻想的な関係性が生まれ、新しくてアバンギャルドなものになるのです。自分がデザインした服を着て地下鉄に乗れるような世界に住めたら最高ですね。でも、それが目的ではありません。私が作る服は、ときには殺風景で平凡な世界における、身体のための彫刻のようなもの——可能な限り装飾的で、大胆で、エキセントリックであるべきなのです。
ファッションがご自身にとって欠かせない、独創的な表現方法である理由は?
いままであまり考えたことがありませんでしたが、卒業後に受付の仕事をするようになってから、服装と自己表現の関係が変わりました。以前は、自分がどう感じるか、という本質的なことに基づいて服を着ていましたが、いまはプロフェッショナルらしくて、少しつまらなく見えることが重要だということに気づいたのです。賑やかなアトリエや、独創的な方法で問題を解決するときに感じる高揚感が懐かしいですね。クリエイティブなプロジェクトに取り組むことは自分にとって欠かせないことで、何かを作ったり、手を動かしたりすることは、私の性質と深く根付いています。ファッションやクリエイティブな表現と再び関わりを持ちながら、デザインとキャリアを追求できることにワクワクしています。
HARRI
2023年2月、シンガーソングライターのサム・スミスが肩や膝が膨らんだラテックス製の黒いバルーンのような衣装をまとってブリット・アワードのレッドカーペットに登場した。その姿は世界中のメディアを駆け巡った。そのときにスミスが着ていた衣装の生みの親こそ、Harriことハリクリシュナン・キーシャティル・スレンドラン・ピライ(Harikrishnan Keezhathil Surendran Pillai)である。29歳のHarriはロンドンを拠点に活動するインド生まれのデザイナーであり、2019年にLCFのファッションデザイン技術(メンズウェア)の修士課程を修了した。はやくも卒業コレクションにおいてトレードマークともいうべきスタイルを確立した彼は、イギリスファッション協会(BFC)が主催する将来有望なデザイナーを支援するためのイニシアチブ「BFC NewGen」の2023/24年度の受賞者に選出された。ボディビルダーとしての経歴と人体の輪郭にイスパイアされた彼は、9月にBFCの支援を受けた2024年春夏コレクションを発表した。フォルムとテクスチャーの探求に自身の興味を根付かせた彼は、テーラリングの才能にも磨きをかけ、リサイクルされた日本製ナイロンを用いて肩と襟が突き出た伝統的なメンズウェアのシルエットをアップデートした。ショーマンシップと無限の創造性に包まれたHarriは、ロンドンのファッションシーンにほどよい”予測不可能性”を注入している。
ご自身のデザイン哲学をひと言で表してください。
私のデザイン哲学は、ファッションの既存のプロポーションに常に挑み続けることです。
この号では、夢を見ることを恐れない若手デザイナーたちに焦点を置いています。ファッションをこよなく愛する若きデザイナーとして、ご自身の想像力を掻き立てたデザイナーを挙げてください。
ヘンリック・ヴィブスコフやウォルター・ヴァン・ベイレンドンクのようなデザイナーの素朴で妥協のない創造性をいつも尊敬しています。
ご自身にとって、ファンタジーを喚起させるようなファッションを作ることの重要性とは?
私にとってファッションは逃避の手段であり、見たこともない形やフォルムを作り出すことが大好きです。だからこそ、ファンタジーを喚起することはとても重要です。作品を通じて表現する逃避こそが、私の人として、デザイナーとして、さらには起業家としてのバランスを保っているのです。
ファッションがご自身にとって欠かせない、独創的な表現方法である理由は?
私はファッションの力を信じています。ファッションはイメージからテーラリングまで、私が実践しているすべてのことをひとつの世界に統合し、世界中のオーディエンスに届けることを可能にするからです。
イヴァン・デログ(IVAN DELOGU)
サルデーニャ出身のイヴァン・デローグは、パワフルな女性たちに宛てた”ラブレター”として服を作る、29歳のデザイナーである。LVMHの奨学金を得てCSMで学び、2023年には同校のファッションデザイン(ウィメンズウェア)の学士号を取得。そんな彼が発表したアップサイクル素材を使ったデビューコレクションは、1970年代のパフォーマンスアート・ムーブメントからインスピレーションを得たもので、故郷サルデーニャの女性たちのさまざまな経験を紹介することを目的としている。フォークロアの要素をキャラクター主導のデザインに取り入れ、ポピュラーカルチャーや伝統、詩といったテーマを探求する。シリアルボウルや海藻のような素材を組み合わせて、精巧で威厳のある作品を作るデローグは、気候変動という緊急事態にアプローチする革新的な方法を見出したとして、同校とLVMHから「メゾン/0 グリーントレイル アワード」を贈られた。さらにいは、ニューヨークのメトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートのヘッド・キュレーター、アンドリュー・ボルトンからサラバンド財団の奨学金の受賞者に選出されたことにより、CSMの修士課程で勉強を続けるための切符を手に入れた。
ご自身のデザイン哲学をひと言で表してください。
エシカル、文化の保全、パーソナルな物語、コンテンポラリー、オーセンティック、インクルーシブ、クリエイティブ。
この号では、夢を見ることを恐れない若手デザイナーたちに焦点を置いています。ファッションをこよなく愛する若きデザイナーとして、ご自身の想像力を掻き立てたデザイナーを挙げてください。
ロメオ・ジリは、私たちを魅惑の世界へと誘う力を持つデザイナーだと思います。ジリの特長である卵型のシルエットと詩的なストーリーテリングは、ファッションのルネサンスを想起させるかのようです。日本の女性に対する深いリスペクトと偉大な日本人デザイナーたちを想起させるスタイルが、彼を際立たせていると思います。彼のクリエイションに触れるとき、私たちはイマジネーションが支配し、夢が実現する領域へと誘われるのです。
ご自身にとって、ファンタジーを喚起させるようなファッションを作ることの重要性とは?
新しい視点から世界を見ることができ、現実に対する理解を広げることができるからこそ、ファンタジーを喚起させることは大切です。新しい未来を思い描くことはとても重要だと思っていますし、リスクを冒すことは怖くありません。私の作品にはスピリチュアルで形而上学的な領域との深いつながりが投影されていることが多々あり、それらの要素が作品に深みと意味を与えているのです。ファッションには、日常生活においてさまざまなキャラクターを体現する力があります。それは映画や本のように影響力のあるもので、私たちはファッションを通じてそうした人物になれるのです。
ファッションがご自身にとって欠かせない、独創的な表現方法である理由は?
私にとってファッションは常に自己表現の手段であり、私のアイデンティティと深く結びついているものです。創作は主に自分自身のためであり、自分が何者であるかを周囲に伝えるための方法でもあります。構想の段階では、先入観や他人の期待といったものは一切考えません。私は、ファッションが自分自身を表現する解放感を与えてくれることにようやく気づきました。将来のキャリアや修士課程修了後のことなど、不確定要素はたくさんあります。でも、自分のスタイルを確立することで、より深いレベルで自分自身を理解することができると思います。こうした成長は、私のデザインにおける選択を通して視覚的に現れてくるのではないでしょうか。
ヤク・ステイプルトン(YAKU STAPLETON)
若手デザイナーにとって明確なビジョンとアイデンティティを持つことは、決して簡単なことではない。だが、26歳のヤク・ステイプルトンは、はやくもそれをやってのけてしまった。BFCとLVMHから奨学金を得てCSMの修士課程を修了し、2023年2月には卒業コレクションを発表。「The Impossible Family Reunion in RPG Space」と題されたこのコレクションでは、パディング入りの膨らんだコートやずり落ちてきそうなカーゴパンツ、さらには巨大な布のハンマーなどが登場した。昔ながらのビデオゲームへのオマージュが感じられるこのコレクションは、栄えある「ロレアル・プロフェッショナル・クリエイティブ・アワード」に輝いた。その後、このコレクションは新しい才能を発掘するリセールプラットフォーム「SSENSE(エッセンス)」のラインアップに加わり、ステイプルトンは晴れてコンテンポラリー・ストリートウェアのデザイナーの仲間入りを果たした。アフロフューチャリズムからインスピレーションを得たステイプルトンは、キャラクターを第一に考えたデザインプロセスを発展させ、実際に自分の家族が着ている服をベースに作品を手がけるかたわら、プラスチック製の彫刻や3Dスキャナーなど、型にはまらない方法を駆使して、リラックス感がありながらもワクワクするような服づくりに対する独自のビジョンを発信している。さらには、明確なデザイン言語を保ちながらも、デビューコレクションの冒険的なエッセンスはそのままに、機能性に重点を置いた「Summer Cousins」と題された2024年春夏コレクションを発表した。
ご自身のデザイン哲学をひと言で表してください。
探求の中心。私は、自分の行動や考え方を振り返って見直すことがよくあります。この他にも、誰かと情報を交換して探求のプロセスを楽しんでいます。
この号では、夢を見ることを恐れない若手デザイナーたちに焦点を置いています。ファッションをこよなく愛する若きデザイナーとして、ご自身の想像力を掻き立てたデザイナーを挙げてください。
私のイマジネーションに大きな影響を与えたのは、生地から形を作り出す卓越した技術の持ち主であるチャールズ・ジェームズと、視覚的なストーリーテリングと世界観の構築が見事な(「ゴジラ」シリーズの監督兼共同製作者の)円谷英二、そして彫刻作品と人体のフォルムを解釈しようとするアプローチで知られるヘンリー・ムーアの3人です。
ご自身にとって、ファンタジーを喚起させるようなファッションを作ることの重要性とは?
子どもの頃にきょうだいで遊んでいた空想ゲームが、私のクリエイティビティを育んでくれました。「アフロフューチャリズム」として理解するようになったコンセプトに早くから触れていたことが、私のデザイン観に深く影響していると思います。私は、こうした瞬間への郷愁をファッションのストーリーテリングの原動力とし、人々が自分自身のさまざまな姿を探求し、自己発見の旅に喜びを見出すためのメディアとしてファンタジーを受け入れているのです。
ファッションがご自身にとって欠かせない、独創的な表現方法である理由は?
自分を表現することは、私にとって欠かせないことです。安らぎの時間を与えてくれますから。そもそも私は、自分を表現するための手段として、ファッションと出会いました。言うなれば、ファッションは偶然見つけた”媒体”なのです。でも、他の芸術的な分野でも心の平安を見つけられるようになりました。創作は私に明晰な感覚をもたらし、それが私の人生における”コア”となるのです。
ヤシャナ・マルホートラ(YASHANA MALHOTRA)
ヤシャナ・マルホートラのホームページを下にスクロールすると、「Meet the Team(メンバー紹介)」という、チームメンバーを紹介するセクションがある。ここではCEOからお針子、さらには人事担当まで、ありとあらゆる役割がマルホートラ本人に割り当てられているのだ。役割ごとに違うヘアスタイル(どれもド派手なものばかり)から、マルホートラが一人二役以上のことをこなしていることがうかがえる。ユーモラスなトーンとともに示される型破りな精神は、28歳のデザイナーの仕事に対するアプローチを物語っている。デザイナーとしてだけでなく、画家やビデオグラファーとしても才能を発揮する彼女は、2021年にCSMのファッション学部ウィメンズウェア専攻(学士課程)を修了し、その独特の凝ったドレスでますます注目の的となった。膨らんだスカートと袖が特徴的なそのデザインは、メタリックな生地とモジュール化されたシルエットによって表現される抽象的な鏡を彫って装飾に使うことでも知られるそのクリエイティビティは、服作りだけにとどまらない。
ご自身のデザイン哲学をひと言で表してください。
楽しくてストレートで、核心を突いていること。
この号では、夢を見ることを恐れない若手デザイナーたちに焦点を置いています。ファッションをこよなく愛する若きデザイナーとして、ご自身の想像力を掻き立てたデザイナーを挙げてください。
兼ねてから私は、デザイナーよりもアーティストに惹かれてきました。(韓国出身のコンテンポラリー・アーティスト)イ・ブルの1990年のパフォーマンスアート作品『Sorry for Suffering』には魅了されましたね。ブルの容赦ないアプローチに大きな喜びを感じました。
ご自身にとって、ファンタジーを喚起させるようなファッションを作ることの重要性とは?
現実はとても悲しいものです。でも、ファンタジーの中、あるいはファンタジーを通して生きるという一種の”無知”が悲しみを打ち消すのです。
ファッションがご自身にとって欠かせない、独創的な表現方法である理由は?
私たちがどのような服を着て、どのように自分を見せるかは、とても重要なことです。それは誰かの秘密や気分、選択を見るようなものだと思います。これらはすべて、私たちが社会を生きるときにまとう服から読み取ることができます。
エデン・タン(EDEN TAN)
エデン・タンは、バイラリティの扱い方を心得ているデザイナーだ。CSMでファッションデザイン技術(メンズウェア)の学士号を取得したタンは、その集大成として発表したデビューコレクション「On Borrowed Fabric」でオーディエンスを魅了した。このコレクションを通じてファッション界における廃棄物の問題を探求した彼は、6つのルックを発表。瞬く間にメディアの注目を集め、業界関係者やファッション愛好家たちは、23歳の若きデザイナーの独創的なデザイン観の虜になった。シンプルで生き生きとしていて、サステナビリティを実現するための革新的な展望を持つタンは、2023年度の「ロレアル・プロフェッショナル・ヤング・タレント・アワード」を受賞した。過去にはグレース・ウェールズ・ボナーやリチャード・クインといった注目の若手デザイナーが受賞しているこの賞は、タンを輝かしい未来へと導くだろう。ルーチョ・フォンタナやクリスト&ジャンヌ・クロードのような先駆的なビジュアル・アーティストからインスピレーションを得ているタンのデザイン哲学は、未踏の道を見つけること、そしてコレクションを発展させるにあたってのユニークなアプローチを模索することにある。
ご自身のデザイン哲学をひと言で表してください。
常に明確であれ。
この号では、夢を見ることを恐れない若手デザイナーたちに焦点を置いています。ファッションをこよなく愛する若きデザイナーとして、ご自身の想像力を掻き立てたデザイナーを挙げてください。
正直なところ、いままであまりファッションに夢中になったことはないんです。憧れているデザイナーはいますが、たいていの場合は、ファッション界では尊重されていないという理由からです。
ご自身にとって、ファンタジーを喚起させるようなファッションを作ることの重要性とは?
私には、創作の結果としての作品をどうこうすることはできませんし、どうこうしたいとも思っていません。創作には手順があり、ときにはファンタジーという結果に終わることもあるかもしれませんが、作品を決定するプロセスは理路整然としていて、あえてファンタジーに抗おうとしています。私は、作品から自分の個性をできるだけ排除するようにしているのです。作品を通じて自分を表現しようとしたことはありません。
ファッションがご自身にとって欠かせない、独創的な表現方法である理由は?
ファッション、ひいては服というのもはひとつの構造であり、私はその範疇で仕事をします。それは深く根付いたインフラのようなものであると同時に、ルールや制限のあるゲームなのです。そこに手を加えることで、未知の領域が見えてきます。どのような人生を歩むにせよ、私が働く目的は、その領域を見つけることです。
インディア・ハンニキン(INDIIA HUNNIKIN)
CSMのファッション学部でファッションデザインとニットを専攻したインディア・ハンニキンは、世間の注目を集めることに長けている。BFCから奨学金を得て学んだ彼女は、2023年の夏にデビューコレクション「Slaggamuffin Centralé」を発表。ハーレクイン風のシルエットをセクシーに再構築した独創的なアプローチは、爽やかで大胆なものだった。ショルダーパレットやカマーバンドといったミリタリー風のディテールとカトリックのシンボリズムを融合させ、そこにニップレスや下着が見えそうなくらいのミニ丈といった際どい要素を散りばめた23歳のデザイナーは、羽目を外すことを恐れない大胆な姿勢を見せつけてくれた。マスタードイエローと鮮やかなレッドからなる華やかなカラーパレットを取り入れた彼女は、人々の目を引く最高の方法を心得ている。
ご自身のデザイン哲学をひと言で表してください。
知的な人のためのヴィクトリアズ・シークレット(笑)
この号では、夢を見ることを恐れない若手デザイナーたちに焦点を置いています。ファッションをこよなく愛する若きデザイナーとして、ご自身の想像力を掻き立てたデザイナーを挙げてください。
ヴィヴィアン・ウェストウッド、アレキサンダー・マックイーン、ミーダム・キルヒホフ。彼らの信念と物語を表現できる力に想像力をかき立てられます。
ご自身にとって、ファンタジーを喚起させるようなファッションを作ることの重要性とは?
リアルなカルチャーに挑み、そこから逃避するため。
ファッションがご自身にとって欠かせない、独創的な表現方法である理由は?
ファッションには、過小評価されている力があると思います。ファッションは私がもっとも得意とする”言語”ですが、私にとっては言葉よりもはるかに雄弁なものです。
ジェシー・フォン・カリー(JESSIE VON CURRY)
時おり、変化を推し進めようとするデザイナーが現れることがある。LCFでコスチュームデザイン(修士課程)を専攻中のジェシー・フォン・カリーは、まさにそのひとりである。35歳のフォン・カリーは、そのクリエイティブな才能を活かして、廃棄物の急速な拡散という危機的状況に警鐘を鳴らしがなら、持続可能な解決策を模索している。貪欲さと搾取が発展途上国の人々の生活の質に与える影響を強調することを目的としたプロジェクト「Waste Mountain」では、90ポンド(約40キロ)の古着を使って、過剰消費の現実を厳しく反映した作品を発表した。
ご自身のデザイン哲学をひと言で表してください。
レジリエンスとして夢を見ること。レジスタンス(抵抗)とコ・エボリューション(共進化)による未来の再考としてデザインすること。
この号では、夢を見ることを恐れない若手デザイナーたちに焦点を置いています。ファッションをこよなく愛する若きデザイナーとして、ご自身の想像力を掻き立てたデザイナーを挙げてください。
アメリカの彫刻家でパフォーマンス・アーティストのニック・ケイヴです。2012年に、テキサス州で彼のコスチュームを見ました。拾った材料から作られたその彫刻的なフォルムは、見慣れた世界と別世界との絶妙なバランスを見出していると思いました。ケイヴのコスチュームと実際に対面すると、自分自身の心に潜む悪魔や限界、思い込みと向き合い、新たな可能性の領域が広がっていくような気がします。彫刻とパフォーマンスを結びつけてコスチュームを作るケイヴは、コスチュームの重要性を再認識させてくれました。
ご自身にとって、ファンタジーを喚起させるようなファッションを作ることの重要性とは?
私にとって夢を見ること、そしてデザインすることは、一種の抵抗なのです。ファッションにおける幻想とは、採取・搾取への依存を否定することだと思います。サステナビリティ業界からデザイナーに転身した者として、私はこの幻想に真っ向から立ち向かうファッションに興味があります。デザインは、「もし〜だったら?(What if?)」という問いかけを実行するツールとして使われるときに最大の力を発揮すると思います。たとえば、今回取り上げた「Lucifer」は、地球でもっとも大きな花として知られる寄生植物「ラフレシア」の未来の進化を想像するための作品です。私は、服には種と種の間の物語を橋渡しする力があると思っていて、それは地球が置かれている危機的状況を鑑みると必要なことだと感じています。私はよく自然の素材を探して作品を作りますが、私たちの環境を構成している、絡み合った多種多様な生命を受け入れることに何よりも惹かれます。
ファッションがご自身にとって欠かせない、独創的な表現方法である理由は?
私はいつも、求められたときに適切な言葉を見つけるのに苦労してきました。そのため、表現できないことを表現するために、服のような視覚的な形に頼ることが多かったです。服を通して自分の感情を表現するという傾向は、子どもの頃からのものです。また、着るものによって自分自身の経験や認識、そして他人との相互作用がどのように変化するのかにも興味があります。私は、ファッションとコスチュームを多感覚的で身体化された経験、ひいては自分自身の日々のパフォーマンス、そしてより大きな世界との接点として見ています。
この記事は、10マガジン72号「DARE TO DREAM」からの抜粋です。
DREAM BIG: THE DESIGNER WAVE
Photographer JOHN SPYROU
Fashion Editor GARTH ALLDAY SPENCER
Text BELLA KOOPMAN
Models ELFIE REIGATE at Kate Moss Agency and WAWA at Nevs Models
Hair SKY CRIPPS-JACKSON at The Wall Group using Davines
Make-up TERRY BARBER at David Artists using MAC Cosmetics
Set designer BEN GARCIA HUGHES
Photographer’s assistant SEAN MORROW
Fashion assistants GEORGIA EDWARDS, CHARLOTTE SWINDELLS and SONYA MAZURYK
Hair assistant ALICE SCHNEIDAU
Make-up assistant HELAYNA SHELTON
Casting SIX WOLVES
Production ZAC APOSTOLOU
Shoes throughout by CHRISTIAN LOUBOUTIN