仮面をかぶり、別の自分を演じること。プシュパマラ・Nの作品では、“演じる”行為自体が視覚文化や社会への鋭い問いかけとなる。
東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールにて、インド出身のアーティスト、プシュパマラ・N(Pushpamala N)の展覧会「Dressing Up: Pushpamala N」が6月27日(金)より開催される。ヴィジュアルと物語を軸に、女性像や文化の記憶を問い直す彼女の作品群は、“装う(Dress up)”ことそのものが考察的な実践となっている。
今回の展覧会では、3つの代表作が紹介される。
まず、彼女のキャリアの転機となった「Phantom Lady or Kismet」(1996–1998)。ボリウッドのアクション映画や1930~40年代のコミック『Phantom』にインスパイアされた本作は、仮面のヒロインを演じる25枚のモノクロ作品で構成されている。インドの視覚文化やフェミニズム、表象というテーマをユーモラスかつ鋭く掘り下げている。
続く「Return of the Phantom Lady」(2012)は、同キャラクターが現代のムンバイに舞い戻る続編。ミステリー小説の表紙を思わせる鮮やかな色彩の21枚の写真には、歴史ある映画館や古びたカフェなど、かつてのムンバイの街並みが写し出される。一方で、再開発によって失われつつある情緒ある都市空間と、今も変わらぬ社会構造が交錯し、虚構と現実、そして過去と現在が錯綜する。
3つ目の「The Navarasa Suite」(2000–2003)は、インド美学における9つの感情「ラサ」(恋情、驚き、ユーモア、恐怖、嫌悪、悲しみ、怒り、勇敢、静寂)に基づくセルフ・ポートレートシリーズ。紀元前に起源を持つこのラサ理論と、「インド映画がインドの近代性を創造し記録してきた」という作家自身の視点が交差し、視覚的にも、思索的にも深みを持つ作品群となっている。
“Dress up”は、お洒落ではなく、問いかけだ。仮面の奥に潜む“真実”がある——そんなメッセージが、作品のひとつひとつに感じられる。
「Dressing Up: Pushpamala N」展
会期:2025年6月27日(金) – 8月17日(日)
会場:シャネル・ネクサス・ホール
住所:東京都中央区銀座3−5−3 シャネル銀座ビルディング4階
開館時間:11:00 – 19:00(最終入場18:30)
URL:nexushall.chanel.com/program/2025/dressingup