北村匠海が放つ、タフなエレガンス

ディオールのジャパン アンバサダーに就任した北村匠海。彼が纏ったのは、メンズのクリエイティブ ディレクター、キム・ジョーンズによる20世紀の天才バレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフをテーマにした2024年ウィンター コレクション。写真家の小浪次郎が、今をときめく俳優・アーティストの内に潜むセンシュアルな美を捉えた。

過去でも未来でもない。北村匠海が「今」を生き切る理由

ジャケット トップス パンツ ベルト/DIOR  時計/DIOR TIMEPIECES

誰にこの人の才能を止められるというのか?  ひとつのフィールドに縛られることなくアーティストとしての才能を世に放ち続ける北村匠海。ゼロから100まで、いかなる数字にも着地できる柔軟性に、表現者としての確固たるパッション。そのコアにあるものを探った。

メジャーからオルタナティブまで、まるで表現に境界線など存在しないかのように、アーティストとしてさまざまな道を自由に行き来する彼は、役者としてさまざまな役に挑み、2025年の春にはNHK連続テレビ小説「あんぱん」の出演も決定。今秋からディオールのジャパン アンバサダーに就任し、服を通してブランドの魅力を表現する。一方、4人組バンドDISH//のフロントマンとしても飛躍を続けている。そんなマルチタスクな才能を持ち、アーティストとしての人生を駆け抜けてきた北村が大切にしている人生観、「今を生きる」ことの意味を語る。

ウエストベルト付きジャケット ニット パンツ ベルト/DIOR

――今日はディオールを着用しての撮影で、見ているだけでも、ものすごくドラマチックでした。どのようなイメージで、カメラの前に立たれたのでしょうか?

自分自身がディオールを纏う意味を考えながら、被写体として「脱線」という世界をイメージしました。自分が入り込む世界から一歩外に出るような感覚があったので、バランスよくカメラの前に立つのではなく、軸をずらさなければいけないなと。なので、常に自分に負荷をかける姿勢というのを意識していました。

コート ジャンプスーツ スカーフ/DIOR

――アーティストとして多様な活躍をされていますが、それぞれの分野で得た経験というのは、他の分野にどのように影響していますか?

一貫しているのは、僕は表現するという分野の幅の中でやりたいことをやっていて、それぞれが僕にとっての言葉であるという感覚です。例えば芝居も音楽も、撮る、写るという今日のような撮影も同じです。実際にシャッターの中に言葉はないけれど、やっぱりカメラマンと被写体って会話をしている感じがすごくある。とても感覚的なものですが、言葉の中を生きている気がしているんです。

その中で得たものはさまざまな形ではなく、結局はひとつの形になって返ってきていると思っています。ただ、言葉を扱う自分の根底にあるのは、結局は芝居だと思うんです。写真に写っていても、歌を歌っていても、もちろん役者として生きていても、自分ではない自分みたいなものが確かに存在する。それは最近すごく思っていることです。

プルオーバー シャツ ショートパンツ ソックス シューズ/DIOR

――音楽をやっているときも、ミュージシャンという役を演じている感覚があるということでしょうか?

そうです。多分、演じているんだと思います。音楽をやっているときは、今取材を受けているこの人物とはまったく違う人間になっているので、映画やドラマに携っている人たちが僕たちのライブを観に来た際には必ず、「マジで誰?」って言うくらい別人なんです。しかも、普段の自分ではないままでいるので、「マジで誰?」と言われていることに対する僕のアンサーすら、いつもの自分とは違う。だから余計にみんなも困惑する。

そもそも役者は自分ではない人生を読み解いているものなので、演じるときは必ず纏っているものはあるのですが、僕は音楽をやっているときも絶対に何かを纏っている。例えばアイメイクひとつにしても、ステージに上がる自分を手助けしてくれる大きなツールだったりして。その常に何かを纏い続けているというのが、ひょっとしたらマルチに見えているのかもしれません。

ジャケット イヤリング/DIOR

――フォトグラファーとして仕事をされるときもその感覚がある?

昔は自分の中にカメラマンとしての要素がナチュラルに詰まっていると思っていたんですけど、実は自らその要素を得に行っていたことが、年齢とともに分かってきた。やりたいことが多すぎるから、オリジナリティーを生み出すというよりも、オリジナリティーをつかみに行く感じだったんです。

――その感覚に気づいたのはいつ?

ここ4年ぐらいだと思います。世の中がコロナで自粛期間に入ったときに色々と考えて、その答えにたどり着き、気が楽になりました。「一体どれが本当の自分なんだろう?」と思っていた時期もありましたが、どれも自分だし、常に演じているのが自分なんだろうと、ポジティブに捉えることができるようになったんです。

トップス パンツ イヤリング/DIOR

――では、常に演じている中で、どの瞬間に一番ワクワクさせられるのでしょうか?

何事においても奇跡が生まれる瞬間というのがあるんです。例えば役者だったら、毎日撮影をして芝居をするわけですけど、あるシーンのワンカットが「とても言葉にはできない良さがあったよね」という瞬間がある。みんなやっぱりどこかで奇跡を追い求めているんですよね。

今日の撮影も色々なアイデアを出し合いながら、このセッションの中で奇跡の一枚を探り当てる。これは音楽も一緒で、一年を通して同じ曲を色んな場所で歌う中で、奇跡のような一回というのが訪れるんです。その一瞬を知ってしまっているから、その感覚をもう一度味わおうとしてやり続ける。ある意味、快感になっているんだと思います。

プルオーバー トップス パンツ イヤリング/DIOR

――作品選び、あるいは役選びのこだわりのようなものはありますか?

「こういう役をやりたい」ということは一切考えていません。というのも、役者は主役であれ何番手であれ、あくまでも物語のひとつのピースでしかないから。だから、物語の内容であったり、トータルを見て決めています。役者である自分にとってプラスになるかマイナスになるかではなく、作品との出会いだけを重視している。忖度で出演作を選ぶことはないです。

――ということは、得意・不得意ということも気にしない?

気にしたことはありません。気にする間もなく色んなものに飛び込んでいたというのが正直なところですが、もちろん実際に現場で難しいなと思うタイミングは多々あります。でも、基本的に自分の引き出しにないからこそワクワクするタイプで、知らない世界に飛び込むことへの不安、知らないから不安という感情はゼロ。

トップス パンツ ベルト イヤリング リング バッグ/DIOR

――今の仕事が天職なんですね。

8歳のときからこの仕事をしているので、何者でもない期間が8年しかなかった。同期でも途中で違う人生を歩む人をたくさん見てきた中で、僕は向いている人間になるように、自らどんどんそっちの方に寄っていったんだと思います。

――色々なことをやっていると、どれかがうまくいかないこともあると思いますが、どこか歯車が合わないようなときの切り替え法は?

僕の場合は、役者としてひとつ壁がドーンと立ちはだかったとしたら、音楽や他の居心地のいい場所に逃げることができる。一旦違うことに目を向けることで発想が転換して広がっていくし、実際に寄り道をしたことで越えることができた壁はたくさんあります。

逆に僕の周りにはそのひとつの道で生きてきている人が多いので、その方がよほどすごいなと思って尊敬しています。マルチに生きてきたからこそ、ひとつの道を極めて生きている人たちへの憧れはありますね。でも、僕自身は心の選択肢みたいなものは、たくさん持つようにしています。

ウエストベルト付きジャケット ニット パンツ ネックレス ブレスレット/DIOR

――多様な才能を進化させ続けるために、大切にしていることは?

一歩踏み込んだものへの知識みたいなものは常に追い求めています。ただし、かっこつけで物事を学ぼうとするのではなく、自分の心に従うようにしています。自分は「知りたい」が連続していくタイプなので、今こうやって色々なものを自分の中に蓄えられているのですが、それが急にパタッと閉じるときもある。そうなったら、そこからしっかりと目を背けてあげて、別のことに目を向ける。するとまた急に違うところに興味が進み、それが前の知識とつながったりする。

もの作りにおいても、そういう自分の衝動をすごく大事にしています。だから芝居中も、台本には書かれていなくても自分はこうしたいな、と体が自然に動くときは、絶対に実行してみる。衝動というのは僕にとってすごく大事な感情だなと思っています。

ジャケット ニット パンツ イヤリング/DIOR

――逆に衝動ではなく、計画的に行っていることはありますか?

計画性みたいなものは本当にないんです。それはおそらく、過去にも未来にもあまり興味がないからだと思うんです。結局今を作り上げたのが過去であり、未来を作るのが今なわけで。じゃあ今をどう生きるかということだけに注力すれば、どんな道でも開かれていく気がする。今を頑張ることが未来への展望と同義な感じがしているので、後先を考えずに今を生き切るという感じです。

――そうやって全力で生きていると、後悔も少なそうですね。

後悔にも色んなジャンルがあると思いますが、「もう少しこうしておけばよかったな」とか、そういう後悔はあります。ただ、その後悔があっての今であり、今に満足しているかどうかが生きる上ですごく大事だと思うので、常に満足感を求めて、今起きていることを大事にするようにしています。

プルオーバー トップス パンツ シューズ/DIOR

――そんな北村さんを動かす最大のモチベーションは?

やっぱり「楽しい」なんでしょうね。この仕事を始めて、再来年で20年になりますが、楽しくなかったら続いていないと思うんです。良くも悪くも自分の中にあるそのハードルの低さのおかげで、プレッシャーを感じることもなく、楽しくやれているんだと思います。

自分を客観的に見ると、今やっているすべてのことが楽しくて、シンプルにそこが原動力になっているし、楽しいからワクワクもする。一方で、「楽しいからもっと」という気持ちだけで生きていると、枯渇していくものもあったりします。自分でもものすごく生き急いでいる感じがあるので、最近は一度きちんと立ち止まるということをモットーにしています。

コート ニット/DIOR

――今後身に付けたいこと、新しい関心などはありますか?

今日の撮影もそうですが、こういうクリエイティブな場とたくさん出合うことで、自分も表に立つだけでなく、誰かを引き立たせるようなこともしたいなと思うようになりました。実は一度だけ演技レッスンをしたことがあるのですが、それがすごく楽しかったんです。そうやって誰かをきちんと見てあげるということをしたい。

もちろん相手に自分の知識を共有したいというのもありますが、表舞台に立ってばかりだと見えない視点がスタッフ側に回ることで見えてきて、結果的に自分の視野もものすごく広がる。そして、やっぱり単純に楽しいので、裏に立つ仕事も興味があります。

Photographer JIRO KONAMI
Fashion Editor TEPPEI
Talent TAKUMI KITAMURA
Text RIEKO SHIBAZAKI
Sittings editors SAORI MASUDA and TOMOMI HATA

Hair and make-up ASAKO SATORI
Photographer’s assistant YU TERAMOTO
Fashion assistant TAIRA SAKAMOTO

Share