今シーズンのファッションはスタジオを飛び出し、外の世界へ──のどかな草原や静謐を湛えたインテリア空間、人影のない街が服やアクセサリーの背景となり、ひとつひとつのキャンペーンに物語性を添えた。大自然の風景を舞台に繰り広げられたクロエの陽気でフォークロアなキャンペーンから、ミュウミュウの無人の駐車場での“逃避行”にいたるまで、本誌のUK編集部による「ベスト2026年秋冬キャンペーン12選」をお届けする。
1. Chloé
クロエの2026年秋冬キャンペーンは、可憐な黄色い花やラベンダー、そして背の高い草が生い茂る大自然のなかで命を吹き込まれた。フォトグラファーのイネス・ヴァン・ラムスウィールドとヴィノード・マタディンがレンズで捉えたそれらのビジュアルは、モデルのラケル・ジマーマンやジャッキー・ルイーズ、タリタ・フェレイラ、サラ・イサクセンが体現する、躍動感あふれる自由とフェミニニティを見事に映し出している。モデルたちが纏うボリューミーなドレスや刺繍が施されたブラウスなどは、クロエのDNAに刻み込まれている「一体感」を彷彿とさせる。
「今回のキャンペーンでは、女性たちの姿、広大な自然、そしてクラフツマンシップを通して、献身を表現したいと考えました。自然は私たちを本能と自由、そして人とのつながりへと立ち返らせてくれます。フェミニニティは、そうしたオープンな世界のなかで、ありのままの強さと一体感とともに花開くのです」と、クリエイティブ・ディレクターのシェミナ・カマリは語る。 EP
2. Dior
緑豊かな芝生と太陽が降り注ぐ草原を舞台に展開するディオールの2026年秋冬キャンペーンは、このシーズンを象徴する牧歌的なムードにあふれている。風になびく髪や柔らかいパステルカラー、仲睦まじい瞬間がひとつに溶け合って描き出すのは、終わることのないロマンスと自由に彩られた「女性らしさ」への詩的なオマージュ。モデルのサンデー・ローズ、ズーチー・ジャオ、ドリュー・キャンベル、ローラ・カイザーが草の上で寝転んだり、タンポポの綿毛を吹いて飛ばしたりする姿が印象的だ。
フォトグラファーのデイヴィッド・シムズが撮影したキャンペーンビジュアルは、自由奔放なフェミニニティと喜びがひとつになった、幻想的なポートレイトと呼ぶにふさわしい。フェザースカートや睡蓮のモチーフがあしらわれたアクセサリー、キュートなカエル型のクラッチなどが、ディオールの遊び心あふれるクラフツマンシップと花々への愛情を想起させる。ディオールのクリエイティブ・ディレクターに就任してから一年──ジョナサン・アンダーソンのビジョンは、儚い夏への愛を表現したこのキャンペーンとともに、見事に開花した。 Sheraz Zingraff
3. Prada
対するプラダは、屋内に留まることを選択したようだ。2026年秋冬キャンペーンのビジュアルを手がけたのは、映画監督のバリー・ジェンキンス。ジェンキンスといえば、親密なしぐさや静かな部屋といった“平凡”なものを、思わず立ち止まって見つめたくなるようなものに変える名手だ。ここでは服そのものがひとつのキャラクターとなり、チェン・ハオユーやケルヴィン・ハリソン・Jr、ハンター・シェイファー、トロイ・シヴァンに寄り添う。キャンペーンのタイトルは「SIMPLE STORIES」。その名が示すように、ブランドの共同クリエイティブ・ディレクターであるミウッチャ・プラダとラフ・シモンズが「シンプルで誠実、そして人間らしい」というテーマを独自の視点で解釈した作品だ。 Talia Panayi
4. Fendi
ビジュアルアーティストのジョー・アン・カリスが撮影したフェンディの2026年秋冬キャンペーンは、まるでアートハウス映画のスチル写真のように展開する。登場するひとつひとつの視線やしぐさには、無数の意味が込められているのだ。2025年にフェンディのチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任したマリア・グラツィア・キウリによる初のキャンペーンでもある今作は、鏡のように互いを映し出すウィメンズウェアとメンズウェアを通して、人間関係の駆け引きを表現。親密さと距離感のなかに留められたカップルたちが登場する。
近くにいながらも、決して触れ合うことがない──ダンスの世界に絶大な影響を与えたドイツのダンサーで振付家の故ピナ・バウシュのコレオグラフィーにヒントを得る一方で、古色を帯びた建築や厚手のカーテンに飾られたローマの煌びやかなインテリアがひとつひとつのシーンを切り取り、静かでシネマティックな要素を添える。それによって親密でありながらも未解決な──手の内を明かすことなく、豊かなオーラを醸し出している。 EP
5. Miu Miu
深夜の駐車場には不思議な魅力がある。きっとそれは静けさであったり、ネオンの灯りだったり、インダストリアルな雰囲気だったりするのだろう。そんな深夜の、車のない駐車場の地面に引かれた黄色い線のあいだに、上から下まで全部ミュウミュウのアイテムに身を包んだヘイリー・ビーバーが佇んだ瞬間、そこは意外にも、優れたファッションを記録するための格好の場となる。
実際、フォトグラファーのゾエ・ガートナーが捉えたミュウミュウの2026年秋冬キャンペーンは、ビーバーとモデルのシャオ・ウェン・ジュを無人の駐車場に立たせる一方で、街灯の眩しい光で彼女たちを照らす。そうすることで深夜の都会の刹那的な美しさを表現し、まるで映画のような世界観を構築したのだ。それは当然ながら、ミウッチャ・プラダが命を吹き込んだ、現代のフェミニニティのつつましくも自信に満ちた表現でもある。そしてそれは、生まれ変わった「バブルシューズ」や「アルカディバッグ」にも息づいている。 EP
6. Jimmy Choo
ジミー チュウの2026年秋冬キャンペーンの舞台は、壮麗なバロック様式とクールでモダンなラインが融合した、ミラノのパラッツォ・ガララティ・スコッティの内部。クリエイティブ・ディレクターのサンドラ・チョイの架空のデザインスタジオへと生まれ変わった空間のなかで、モデルのアフリカ・ガルシアがリラックスした様子で──パテントレザーのニーハイブーツを履いてスチールのテーブルに肘をついたり、スポッテッドレザーの「シンチバッグ」を片手に大理石のマントルピースに座ったり──ブランドのオータムコレクションを披露している。
そんなジミー チュウの今シーズンの主役はブーツ。すっきりとしたラインが美しい「カリ オーバーザニー85」から、リバイバルされた「BIKER KB」まで、若々しさと経験という対照的な価値観を結びつけながら、ブランド創業30周年を讃える。「私は、とても明確な意図をもってこのコレクションを構想しました。脚を装うというアイデアに惹かれ、私たちの表現のキャンバスをもっと広げたいと思ったのです」とチョイは語り、「このコレクションの主役はブーツです。私はブーツが女性に与えてくれる、若々しくて自信に満ちたエネルギーが大好きです。それはジミー チュウのヘリテージにインスパイアされた、グラマーの力強い表現なのです」と続けた。 TP
7. MCQUEEN
フォトグラファーのグレン・ルックフォードがレンズで捉えたマックイーンの2026年秋冬キャンペーンのテーマは緊張感──まるで一本の映画のように、外見と本心のギャップを浮き彫りにする。今作を貫いているのはアイデンティティや欲望、強さ、オーセンティシティといった概念であり、それらがマックイーンの過去と現在をつなぐキャストによって表現される。
ファッション界を震撼させたマックイーンの2001年春夏コレクションVOSSでランウェイを歩いたカレン・エルソンがブランドのアーカイブ期を紹介する一方で、パロマ・エルセッサー、ジャッキー・フーパー、シャオ・ウェンがそれを“いま”に落とし込む。それらはシャープなテイラリングと柔らかい生地、贅沢な装飾が施されたレースとトロンプルイユ(だまし絵)風の羽根の刺繍のバランスなど、対照をめぐる同じ言語を語っている。音量を最大にして、ドラマとストーリーを紡ぐ──まさにマックイーンの十八番だ。 TP
8. VIVIENNE WESTWOOD
「すべてはベローニを訪れたことからはじまりました。ベローニはイタリアを代表する老舗家具メーカーで、ミラノとコモのあいだに位置するバルラッシーナという街にあるのですが、あらゆる意味で最高の『イタリアらしさ』を体現する存在でもあります」と、クリエイティブ・ディレクターのアンドレアス・クロンターラーはヴィヴィアン・ウエストウッドの2026年秋冬キャンペーンについて語る。
ベローニのショールームにて、フォトグラファーのユルゲン・テラーによって撮影されたキャンペーンビジュアルでは、ゴールドに彩られたバロック様式の空間のなかで、ブランドを象徴するチェック柄のアイテムやフェルトを使った上質なテイラリング、オックスフォードシャツが披露される。誰も見たことがない、まったく新しいイタリアとイギリス文化のぶつかり合いをご覧あれ。 Alice Lana
9. BURBERRY
「足元にお気をつけください!」──ロンドンの地下鉄で耳にする、おなじみのアナウンスだ。それが想起させるように、バーバリーはロンドンを舞台に、日々の通勤にインスピレーションを得た2026年秋冬キャンペーンを展開した。マルチメディアで公開されたローズマリー・ファーガソンやシェリフ・ドゥアンバ、ハオジエ・チーらが出演するこのキャンペーンには、ロンドン地下鉄の案内放送で知られるマシュー・ストリートンによるナレーションが添えられた。「フォックスフィールド トレンチコート」や「リーデナム トレンチジャケット」といったシグネチャーアイテムを軽めの生地で再現したアイテムを中心に、ポロシャツやカシミアニット、ブランケットケープといった重ね着アイテムに焦点を置くことで、季節の変わり目の装いのエレガンスが際立つ。 Bella Koopman
10. LOUIS VUITTON
ルイ・ヴィトンの2026年秋冬キャンペーンをひと言で表すなら「未来のフォークロア」。創業者の故郷であるジュラ山脈の自然豊かな森を背景に、建築的なフォルムが際立つ新作コレクションを披露した。クリエイティブ・ディレクターのニコラ・ジェスキエールは、デニムに織り込まれたアニマル柄やコラージュに着想を得た生地、植物由来のファーを取り入れながら、服と自然界との関係性を構築した。ほかにも、鹿の角を思わせるヒールや、ピンク色のフーセンガムを膨らませる子羊の絵のモチーフがあしらわれたチェック柄のウールのセットアップなど、遊び心を感じさせるアイテムが目を引く。
アウターはサバイバルのストーリーを語りながら、存在感あふれる彫刻的なフォルムを披露。エレガンスは都会だけのものではなく、森の中の散策にもふさわしいことを教えてくれた。このキャンペーンを見ていると、なんだか急に「狩猟採集の生活も悪くないかも」と思えてくるから不思議だ。フォトグラファーのジェイミー・ホークスワースが撮影し、マリー=アメリー・ソーヴェがスタイリングを手がけたこのキャンペーンは、再び自然とのロマンスを燃やしたくなるような気持ちにさせてくれるのかもしれない。 SZ
11. Dolce & Gabbana
ドルチェ&ガッバーナが2026年秋冬キャンペーンで披露したのは、燃えるような情熱。フォトグラファーのスティーブン・マイゼルが撮影した個性豊かなポートレイトは、人と人とのつながりとアイデンティティに焦点が置かれている。ウィメンズウェアとメンズウェアは独立した別々のもののように見えるが、実際は互いを補い、着る人の個性がひとつひとつのイメージを裏打ちする。
贅沢な黒のレースやテイラリング、センシュアリティがブランドの真髄を物語る一方で、マイゼルの「男らしさ」をめぐる、様式化されたポートレートのスタイルによって新たな側面が加えられた。それは1989年にマイゼルがドルチェ&ガッバーナと初めて仕事をしたとき育んできたアプローチでもある。かっちりとしたシルエットがグラマラスでロマンチックなシーンと混ざり合う様子は、まさにドルチェ&ガッバーナのシグネチャーと呼ぶにふさわしい。 SZ
12. SAINT LAURENT
俳優のコナー・ストーリーがダンシング・クイーンに? スポーツロマンスドラマ『ヒーテッド・ライバルリー』に主演し、新たにサンローランのアンバサダーに就任したストーリーは、トップモデルのリウ・ウェンとBLACKPINKのROSÉ(ロゼ)とともにサンローランの2026年秋冬キャンペーンに登場。フォトグラファーのタリア・チェリットが構えるカメラの前で、1988年のヒット曲「I’m Gonna Miss You」に合わせてノリノリのダンスを披露した。シャープなシルエットが際立つパンプスやレースをあしらったミニスカートが映っては消えるなか、気づくとクリエイティブ・ディレクターのアンソニー・ヴァカレロが起用した豪華なキャストたちの圧倒的な個性に魅了される。楽しくてお茶目──まさにサンローランのあるべき姿ではないだろうか。 BK
〈トップ画像〉 photography by Jamie Hawkesworth, courtesy of Louis Vuitton.
