「ユイマナカザト」デザイナー、中里唯馬へ10の質問【渡辺三津子が綴る、未来を照らすデザイナーたち連載 vol.9】

『10 MAGAZINE JAPAN』の創刊号では、本誌ファッション・フィーチャーズ・ディレクターでファッションジャーナリストの渡辺三津子が、日本のファッション界の中核を担う9人のデザイナー、二宮啓、宮前義之、山縣良和、黒河内真衣子、森永邦彦、井野将之、落合宏理、高橋悠介、中里唯馬にフォーカスを当て、10の質問を投げかけた。

第9回目は、ユイマナカザトのデザイナー、中里唯馬へのインタビューを紹介する。9人のデザイナーの創作の軌跡を追い、それぞれが切り拓く未来への視座に迫った渡辺の総論とともに、共通の10の質問に対する各々の個性が光る返答にも注目してほしい。

中里唯馬/「ユイマナカザト」デザイナー

創造性で社会課題に向き合う、未来を見つめるクチュリエ

──クチュールという究極の「一点」で時代の価値観を問う

生まれて初めて“カビの生えたドレス”を見た高校3年生は、その数ヶ月後にたった一人でベルギーのアントワープにいた。王立アカデミーの卒業ショーを見るためだが、若さのエネルギーにファッションがどれだけ大きな火をつけたかが窺われる。

中里唯馬は情熱を率直に表現し、辛抱強く継続することを知る、現在日本で唯一パリ・オートクチュールファッションウィークに参加するデザイナーだ。2008年に王立アカデミーを卒業し、2009年にユイマナカザトを立ち上げた。2016年7月に正会員として森英恵以来日本で2人目となるクチュールショーを開催し、現在に至る。

オートクチュールに照準を絞った理由を、「クチュールこそが着る人を最も尊重できる究極の服だと感じる。同時に新しいラグジュアリーや衣服のあり方を更新していきたい」と中里は語る。人工タンパク質(スパイバー社のブリュード・プロテイン)の糸を用い、廃棄された服から素材を再生するなど、最先端技術で社会課題に向き合う挑戦を、クチュールという最高にクリエイティブな場で行う。「それらの実験は、車におけるF1レースのように数年後にはスタンダードになっているかもしれない。技術だけでなく、価値観の変化を起こしたい」という。

中里のケニアの衣服廃棄現場への旅やコレクション制作の裏側を映したドキュメンタリー映画『燃えるドレスを紡いで』も今年(2024年)公開された。一方で舞台芸術の仕事にも精力的に取り組み、2024年2月にはジュネーブ大劇場で上演された古代ギリシャのトロイア戦争後の世界を描いたオペラ作品で約200体の衣装を手掛けた。

演出家のシディ・ラルビ・シェルカウイは今年1月と7月に発表したユイマナカザトのショー演出にも携わり、中里は「身体表現の豊かさに感銘を受けた」という。2024秋冬のテーマは「機能性が欠落した鎧」。壊れてしまう陶器の鎧や、男性の鎧としてのテーラードに焦点を当てた。中里が目指す「社会課題の解決」は「非言語のファッションという表現」を押し広げた「価値観の変革」に今向かっているようだ。

『10 MAGAZINE JAPAN』からの10の質問

Q1. 優秀なデザイナーが持つ才能とは?
A1. いい意味で時代と合わないものを打ち出していける人。時代の価値観を打ち壊していく強さを持つ人。

Q2. ファッションデザイナーになりたいと思ったのはいつ?
A2. 高校生の頃。古本屋で『スタジオ・ボイス』のマルタン・マルジェラ特集でカビの生えたドレスを見たとき衝撃を受けた。

Q3. キャリアの転換点となったコレクションは?
A3. 最初は自分のアントワープ王立芸術アカデミーの卒業コレクション。そこからブラック・アイド・ピーズのファーギーから衣装のオファーがあった。もうひとつは2016年にオートクチュールウィークで発表した初コレクション。

Q4. デザイナーになりたい若者へのアドバイスは?
A4. 自分に合った道を探し出すこと。人の模倣では長く続かない。

Q5. もしデザイナーでなかったら、何になりたかった?
A5. 表現をして、人に驚いたり、感動してもらえる何か。

Q6. あなたの仕事のいちばんの醍醐味は何?
A6. 自分のインスピレーションを衣服に置き換えて表現し、それを見て感動してもらえるというサイクル。

Q7. 今日の服を選んだ理由は?
A7. ドリス ヴァン ノッテンのTシャツと、自分の作業着として作った“アトリエシリーズ”の服。ドリスさんは学校の大先輩であり、オートクチュールに挑戦するときもお世話になった。

Q8. あなたのブランドのスタイルをひと言で表現すると?
A8. クチュール。さまざまな意味が含まれますが、大量生産が進む世の中で「一点もの」というあり方にカウンターとしての価値を感じる。

Q9. これまでで最高のアドバイスは?
A9. 「作ることを楽しむことが最も重要」。アントワープ在学中にスランプに陥ったとき、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクさんが言ってくれた言葉。

Q10. あなたにとって「服」が意味することとは?
A10. 衣食住の中で「衣」を考えることは人類を考えることと等しい。他者(植物や生物)から何かを借りてきて身につけるのは人間だけが行う行為だから。

Photographer YASUTOMO EBISU
Interview & Text MITSUKO WATANABE

Sitting editors SAORI MASUDA and TOMOMI HATA
Digital editors SHOKO NATORI and MIKA MUKAIYAMA