UKソウル界の新世代歌姫、セレステに注目あれ


Shoko Natori

ロンドンを拠点とするシンガーソングライターのセレステ(Celesteをご存知だろうか。「Stop This Flame」や「Strange」といったヒット曲を収録したスマッシュヒットアルバム『Not Your Muse』(2021)で一躍メジャーシーンに躍り出た彼女は、2021年にイギリスの権威ある音楽賞マーキュリー・プライズにノミネートされたものの、惜しくも受賞を逃した。そんな彼女が4月20日のレコード・ストア・デイを記念して、ニューシングル「Everyday」を限定アナログ盤としてリリースした。

『Not Your Muse』から約3年ぶりとなる待望のニューアルバムの世界観を垣間見せてくれる「Everyday」は、ノッティングヒルの名門レコードショップ、ラフ・トレード(Rough Trade)で開催予定の慎ましやかなイベントでお披露目。スモーキーで心に刺さる歌声とともに、セレステのソングライティングの手腕が遺憾なく発揮された「Everyday」が描くのは、エモーショナルな反抗とソウルフルな憧れといったテーマだ。ニューシングルを4月20日のレコード・ストア・デイにリリースするという決断は、大手レコード会社やレーベルが幅を利かせがちな音楽業界において、インディペンデントビジネスとそれらが果たす重要な役割に対する、セレステの揺るぎない支持表明といえる。ロサンゼルスのカウンターポイント・レコーズ・アンド・ブックス(Counterpoint Books and Records)やウエストロンドンのオネスト・ジョンズ(Honest Jon’s)といったインディペンデント系の書店やレコードショップをこよなく愛するセレステによる今回のような決断は、彼女のすべての行動を貫く、音楽への正真正銘の愛を反映しているのだ。

アメリカで生まれ、イギリスのブライトンで幼少期を過ごしたセレステは、のちに聴く人の心を強く揺さぶるジャジーな作風へとつながる音楽に幼い頃から触れていた。アレサ・フランクリン(Aretha Franklinやエラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgeraldが大好きな祖父と長距離ドライブをするときは、同じカセットを繰り返し聴いていたという。大人になるにつれて、ザ・クラッシュ(The Clashやジャニス・ジョップリン(Janis Joplin、レイ・チャールズ(Ray Charlesといったアーティストの作品を聴くようになり、自分でも曲を書きはじめた。それ以来、シンガーソングライターとして優れた楽曲を世に送り出し続けている。2020年には、期待の新人に贈られるブリット・アワードのライジング・スター賞を受賞。現在のリスナー数は、Spotifyだけでも300万人を超える。それに加えて、ダニエル・ペンバートンとの共作による、映画『シカゴ7裁判』(2020)の主題歌がアカデミー賞にノミネートされた。R&B/ソウル界は、カルト的人気を誇るまでになったセレステのニューアルバムのリリースを今か今かと待ちわびている。そこで本誌は、ラフ・レコードでのイベントを控えたセレステを直撃。クリエイティブゾーンに入る秘訣や、理想的な休日の過ごし方、ライブ後に立ち寄るお気に入りスポットなどについて語ってもらった。

1. こんにちは、セレステさん! さっそくですが、ご自身のサウンドをひと言で表していただけますか?

「ニューアルバムは、サウンド的にはオーケストラ風のディストピアとでもいいましょうか。でも『Everyday』は、これまでの曲やこれからリリースされる曲とは、ひと味もふた味も違います。この曲では、デス・イン・ヴェガスの『Dirge』という曲がサンプリングとして使われています。これをヒントに、どのようなサウンドなのかを想像してもらえたら嬉しいですね」

2. どんな場所で「Everyday」を聴いてほしいですか?

「大音量で聴いてもらえるのなら、どこでも構いません」

3.「Everyday」の主なインスピレーション源は?

「ある日の夕方に、突然頭に浮かんだ曲なんです。そのときはクラブにいて——普段はあまり行かないのですが——インストゥルメンタルの曲を聴いた瞬間に、久しく感じていなかった感覚が波のように押し寄せてきました。その感覚の自然さといい、揺らぎといい、気づくとその曲に耳を傾けていたんです。外に出て喫煙所に行き、その曲から連想したメロディーや気持ちをボイスメモに録音しました。そうしながら、自分が失恋に対する本当の気持ちを否定しながら生きているのではなく、真実を口にしていることに気づいたんです。実際、あのときも失恋した相手のことをずっと想っていて、願いが叶うのなら、どんな結果が待っていようと、あるいは過去に戻ってしまうことになろうと、その人と一緒にいたいと思いました。そのようなわけで、『Everyday』というタイトルは、毎朝目を覚ましてその人のことを考え、毎晩その人のことを想いながら眠りにつくという、シンプルな行為が表現する真実から着想を得ています。執着にも似たこうした感情は、自分の中で徐々に祈りや呪文のようなものに変化していき、そのせいで頭が混乱し、よくない方向へと向かっていきました。最終的には、いつもその人のことと、自分が失ったもののことを考えている自分がすっかり嫌になったのです。でも、その瞬間から自分の中にあった憂鬱な感情を取り払い、悲しみや、いろんな感情から解放されるための道を歩みはじめることができました」

4. 誰かとコラボレーションできるとしたら(亡くなった方でもOKです)、誰がいいですか? 

「できることなら、ディオールや[メゾン]マルジェラのようなファッションブランドとコラボして、年末または来年のライブの衣装を制作してもらいたいです。あと、最近『アメリカン・ホラー・ストーリー』[2011年から2023年にかけて放送された、アンソロジー形式のホラードラマシリーズ]を観ていて、一度出演できたらいいな、と思っています。ミュージシャンに関しては、ずっと前からジャック・ホワイトと仕事をすることに興味があります。Ahnoniもいいですね。彼女のソングライティングは素晴らしいと思います。サミュエル・T・ヘーリングともコラボしてみたいです。前にちらっとコラボの話があったのですが、実現しなかったので。彼の声が大好きなんです。ほかには、Baby Roseというシンガーがお気に入りです。去年は、ロサンゼルスのスタジオで偶然Mor Morと再会しました。パンデミックの前に一度会ったきり、ずっと会っていなかったんです。彼も、私のお気に入りのアーティストのひとりです。亡くなった方だったら、[ピアニストの]オスカー・レヴァントがいいです」

5. いままでにもらったことのある、一番変なプレゼントは?

「変なプレゼントをもらったことはないですね。どちらかというと、変なプレゼントをあげるほうなので」

6. クリエイティブゾーンに入る秘訣は?

「クリエイティブゾーンというものは、ある程度の期間を経て、作品に手をつける覚悟ができたときにはじまるのだと思います。それは、世界に対して自分が抱いているあらゆる感情が、自ずとそれぞれの視点を持って形になるのに身を任せることからはじまります。それが何であるかを十分に理解し、吸収できたと感じたときに、また曲を書く準備ができるのです。そこから先は、それらを伝えられるコード進行さえ見つけることができたら、徐々にメロディーと歌詞も生まれて、ストーリーを語ってくれるのだと想っています」

7. 理想的な休日の過ごし方は?

「とにかく家にいるのが好きなので、ひとりでいることが理想的な休日の過ごし方ですね。機会があれば、1日だけパリを訪れて、マルシェに行ってみたいです。売られているいろんなものを見たり、人に話しかけたりするのが大好きなんです」

8. ファッションウィークの常連のセレステさんですが、特に印象的だったショーは?

「ありがたいことに、ここ2年くらいずっとディオール(Dior)のショーに招待していただいています。クリエイティブ・ディレクターのマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)は、尊敬すべき素晴らしい人だと思います。クリエイティブ・ディレクターとして誰よりも長くトップブランドを率いてきたことに加えて、こうしたブランドの舵取りを任された数少ない女性クリエイティブ・ディレクターのひとりではないでしょうか。そのことは、彼女のスキルとレジリエンス、そして知性を証明していると思います。メゾン マルジェラの最新のアーティザナルコレクション(Maison Margiela Artisanal)も見させていただきました。本当に忘れられない体験で、あの雰囲気といい、作品といい、すべてに目を奪われました! それに加えて、幸運にも今年のウィメンズ・ファッションウィーク期間中は、アンドレアス・クロンターラー フォー ヴィヴィアン・ウエストウッド(Andreas Kronthaler for Vivienne Westwood)のショーを見ることもできました。パフォーマンスアートとファッションを融合させた、とても大胆なステイトメントだったと思います」

9. ロンドンでのライブ後に行く、お気に入りのスポットは?

「最後にロンドンでライブをしたときは、気づくとKOKO[ロンドンの人気ライブハウス]の外に駐車したツアーバスの中で飲んでいました。[フォークシンガーの]ハク・ベイカー(Hak Baker)のライブに参加して、一緒にペット・ショップ・ボーイズの「West End Girls」を歌ったときです。いつの間にか、バー・イタリア(Bar Italia)で飲んでいたこともありましたね——あそこは夜遅くまで開いていますから。遊び相手を見つける場所としては文句なしですが、真剣な交際相手を探したい人にはおすすめできません。あそこのイングリッシュブレックファストティーはものすごく濃くて——眠れずに一晩中起きていたことがあります。でも、どこかで飲むよりも、自宅にみんなを招待するほうが好きですね」

10. 今後の活動について教えてください。

「うまくいけば、ニューシングルとニューアルバムがリリースされます。『うまくいけば』と言ったのは、実際にそうなるまでに何が起きるかわからないからです。でも、アルバムはほとんど仕上がっているので、近いうちにリリースできると思います! タイトルとオープニングも決まりました」

Photography by Erika Kamano and graphic design by Lucas Owen.

@celeste

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