エロスをジュエリーに落とし込む。ベトニー・ヴァーノンの追求


Shoko Natori

性愛は、ベトニー・ヴァーノンを語るうえで欠かすことができないテーマだ。人気ジュエリーデザイナー、アーティスト、作家、セクソロジスト(性科学者)、ヒプノセラピスト(催眠療法士)とさまざまな顔を持つ彼女は、30年にわたって快楽を追求してきた人物として知られる。

ヴァーノンが革命を起こしたのは、1996年のこと。わずか21歳の若さでエロティックなジュエリーコレクションを販売しはじめたのだ。彼女の行為は、アメリカの大手リテーラーを困惑させた。「倒錯者だと非難されました」と、現在55歳のヴァーノンは当時を振り返る。「私は、性的快感を高めることの大切さを確信していました。同時に、ひょっとしたら痛いところを突いたのかもしれない、という感覚はありました。当然ながら、痛いところを突くというのは、自分が何かおもしろいことをしている、という証しですから」

その後、ヴァーノンは数十年間をエロティックなジュエリーコレクションづくりに捧げた。2004年にはパリに拠点を移し、ふたつの球体があしらわれたマッサージリングやスターリングシルバーの“鞭”ネックレス、ラブロックをモチーフにした首輪(シャフトリング付きで、形を変えてハーネスにもなる)などの人気ジュエリーを取り揃えた多彩なコレクションを展開するまでになった。「ジュエリーは、人には言えないような話題について人々と話し合うきっかけを与えてくれました。その話題とは、快楽というタブーに関連したものです」とヴァーノンは言い、次のように続けた。「私のジュエリーは、身体を押し広げたものなんです。あなたが身につけているネックレスは、人から見れば普通のジュエリーですが、実は別の目的を果たすための力を持っている、ということを知ってもらいたいのです。そのネックレスには、快楽を与えてくれる力と、絆を深めるための力があることをわかってほしいと思っています」

ヴァーノンがいうところの「ジュエルツール」は、「身体の中だけでなく、外側を飾るために」貴金属からつくられている。それらは、日常生活における快楽の重要性を説くために彼女が用いる手段でもある。カルト的人気を誇る著書『The Boudoir Bible : The Uninhibited Sex Guide for Today』(2013年,リッツォーリ社)の中で彼女は、人間として私たちが誰かと何かを分かち合うためのキャパシティを広げるいっぽうで、性的な“啓蒙”を得るためにアダルトグッズを正しくかつ安全に使うことの大切さを説いている(2022年に同社は、30年にわたるヴァーノンのキャリアを称えて、『The Boudoir Bible』を「視覚的に補うための作品」として『Paradise Found: An Erotic Treasury for Sybarites』を刊行した)。

Pleasure Puff Cocktail Ring

18年にわたってジュエリーづくりと並行して、性的ウェルネスを伝授する無数の講座を主催してきたヴァーノンは、2022年にイタリア中部のウンブリア州に移住した。ここでは、自分のためのアトリエと、個人顧客にセクソロジーやキュレーティブシェアリング、催眠療法を提供するための実験的なハブをつくろうとしている。

「私は若くしてジュエリーづくりをはじめ、ある醜い真実に直面しました。それは、セックスとは必ずしも快楽と結びついたものではなく、トラウマと深い関係があるということです。それを機に、私の活動は大きく変わりました。性的虐待による苦しみや、セックスによるトラウマからの癒しを求めている人たちをサポートするようになったのです」とヴァーノンは言い、次のように続けた。「性的虐待の被害者と関わることは、あまりに大きな負担なのでは? と人からよく訊かれます。でも、そんなことはありません。私はスポンジのような存在ではありませんから。むしろ、“門”のような存在だと思っています。人々が“向こう側”にたどり着くための手助けをしているに過ぎません。私は、人間は幸せになるため、そして人生が与えてくれるありとあらゆる喜びを享受するために生まれていると信じています。もちろん、性的な悦びも含めて——これは、私たちにとってとても大切なものですから」

10+ 6号「VISIONARY, WOMEN, REVOLUTION」掲載記事

(写真左から)スターリングシルバーとオーストリッチフェザーの「ブドワール ボックス」、スターリングシルバーの「ラブロック コリエ」、スターリングシルバーの「ユニコーン」、スターリングシルバーとオーストリッチフェザーの「オーストリッチフェザー ティクラー」、24Kゴールドとスターリングシルバーの「ジャストラブ Oリング カフキット エングレイブド」

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