ディオール 2027年春夏コレクション

「軽やかさと水彩画の探求」。ディオールのクリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソンは、2027年春夏コレクションをこのように表現した。9月29日(現地時間)にパリで発表された同コレクションは、まるで空気のように軽やかな衣服を具現化できるディオールのアトリエの卓越した技術を余すところなく伝えていた。

「それはメゾンから伝統という“重み”を取り除くことだと思います」とアンダーソンは言葉を継いだ。そのためにはディオールの真髄ともいうべき作品を構造から研究し、最終的には「すべてをシフォンで構築することにした」と語る。こうしてアンダーソンが偏愛するアーカイブルックのひとつである、腰から張り出したフォルムが特徴的な1952年の「シガール」ドレスが流れるような柔らかいシルエットによってアップデートされた。同様に、テーラードジャケットにはヴェールのように透け感のある素材が選ばれた。披露されたアイテムの多くは、アンダーソンのお気に入りの表現を借りるなら、「靴箱に収まるほど」の薄さと軽さを感じさせた。そうしたこだわりはアクセサリーにも反映されており、刺繍をあしらったシフォンや極細チェーンを用いたガーランドのジュエリーが衣服に彩りを添えた。

さらにアンダーソンは、ムッシュ ディオールがガウンやゆったりとしたスカートに用いたことで知られるサーキュラーカットの技術に着目。モダンなショート丈の衣服として披露した。「これらの衣服には、合計10枚のシフォンが使われています。一枚一枚、丁寧に重ねているんです」と解説した。

ドレープやギャザーとともに柔らかなフォルムが生まれ、多くのシルエットがマイクロプリーツによって丸みを帯び、より優しげになった。アンダーソンはフルーテッドシャツやドレス、ジャケット、さらにはデニムにもマイクロプリーツを使用した。なかでも敬愛するゲルハルト・リヒターの風景画を彷彿とさせるという理由から、プリントによる“ぼかし効果”が気に入ったという。「そうした効果にはロマンチックなところがあると思います。それは、まさに私がねらっていた雰囲気なのです」とアンダーソンは語る。そんな彼の口からは、「きれい」「軽やか」「楽観的」「カラフル」といった言葉が頻繁に聞かれた。

2025年にディオールのクリエイティブ・ディレクターに就任してから一年が経ったいま、アンダーソンはその間に自分が築き上げてきたものを見直そうとしている。それについて「この一年間は私にとって探求と、このメゾンを振って何が落ちてくるのかを確かめるための期間だったように思えます。というのも、誰もがディオールのあるべき姿というものを持っていて、それは人によって異なるからです」と語る。そうして作り上げたひとつひとつのコレクションは、彼の戦略的アプローチを担う言語とデザインボキャブラリーの構築に欠かせない。「まったく新しいものを見せて顧客を置き去りにしないように」とアンダーソンは話す。

そういう意味でも、2027年春夏コレクションにはアンダーソンのデビューコレクションに登場した美しい「バー」ジャケットをはじめ、彼がこれまでに手がけたコレクションから“いいとこ取り”された要素も散りばめられていた。パイピングも、繰り返し登場するモチーフのひとつだ。その一方でアンダーソンは、“きれいなだけの装い”のルールを揺さぶりたいと考える。「昔から私は、ディオールには壊れた貴族というか、どこか少しズレたところがあると思っていました」とアンダーソンは言う。もうひとつの特徴は、ウィメンズコレクションにメンズコレクションの要素──とりわけ2026年5月にロサンゼルスで発表された2027年クルーズコレクションのメンズウェアの要素──が取り入れられていることだ。これについてもアンダーソンは、たとえばメタリックなデニムやサテンのショールカラージャケットに関しては、ジェンダーレスな魅力で知られる英国のモデル、故ステラ・テナントのことを考えながらデザインしたと明かした。

アンダーソンとディオールの会長兼CEOを務めるデルフィーヌ・アルノーは、各コレクションを担当する職人の数を約2倍にするなど、共にディオールのアトリエの強化に取り組んできた。その成果が実を結んだようだ。実際、その洗練度は驚くべきものだった。手刺繍が施された縁から、すべてシフォンの花びらで作られたジャケットに至るまで、ひとつひとつのルックには職人の手仕事が息づいていた。シフォンのジャケットに用いられているチェック柄の生地は、1950年代のメンズウェアで使われていたものだという。「私たちはディオールの有名な作品の見本布を使って、新しい作品を織り上げているのです」とアンダーソンは語る。ひとつひとつのアイテムに注がれた緻密なクラフトと想いにもかかわらず、どれも比類なき軽やかさを感じさせた。それこそがディオールの魔法なのだろう。

Photography by Christina Fragkou.

dior.com