『10 MAGAZINE JAPAN』の創刊号では、本誌ファッション・フィーチャーズ・ディレクターでファッションジャーナリストの渡辺三津子が、日本のファッション界の中核を担う9人のデザイナー、二宮啓、宮前義之、山縣良和、黒河内真衣子、森永邦彦、井野将之、落合宏理、高橋悠介、中里唯馬にフォーカスを当て、10の質問を投げかけた。
第3回目は、リトゥンアフターワーズのデザイナー、山縣良和へのインタビューを紹介する。9人のデザイナーの創作の軌跡を追い、それぞれが切り拓く未来への視座に迫った渡辺の総論とともに、共通の10の質問に対する各々の個性が光る返答にも注目してほしい。
山縣良和/「リトゥンアフターワーズ」デザイナー
“服と人間”を探求し続ける、デザイナーであり教育者
──創作と教育から探る“装うことのいとおしさ”
山縣良和はデザイナーであると同時に、「coconogacco/ここのがっこう」の主宰としてよく知られている。年齢も目的も問わず門戸を開く「ファッション表現の実験と学びの場」として2008年に創設された。自身のブランド、リトゥンアフターワーズをスタートした翌年である。15年以上運営するなかで多くの人材を輩出し、トモコイズミの小泉智貴やフェティコの舟山瑛美も卒業生だ。「市役所や小学校で働く人など、さまざまな人がファッションを学んで、自分の現場で何かできるのではと思ってくれるだけですごくうれしい」と山縣は語る。
ブランドも学校も「どっちも大切」で、「装うことのいとおしさを伝える、という自分の根源的コンセプトの伝え方の違いだけ」だという。「がっこう」では、まず「個々の尊厳を大切にし」、自分の心とルーツに向き合うことが重要となる。「自分の無意識と感覚に自覚的になると、それがクリエイションの道具になる」からだ。その方法は、デザイナーを目指した山縣本人の経験から生まれたものだといえる。
生まれ育った鳥取県の学校では、「かなり抑制されて、自分には何の可能性もないのかな」と考えていたが、「何かを見つけたい」と専門学校を中退して、ロンドンへ語学留学する。そこで初めて「やっぱりファッションがやりたい」と心を決めてセントラル・セント・マーチンズ美術大学に入学し、2005年に卒業。2015年にLVMHプライズに日本から初ノミネートされる。
2024年には美術館(アーツ前橋)での初個展を開催し、ブランドの歩みを振り返るとともに、日本社会とファッションの関係を新作インスタレーションで表現。コンセプチュアルな創作を発表するリトゥンアフターワーズと、それを日常着に落とし込んだライン、リトゥンバイを展開しており、通常のファッションビジネスのサイクルとは別のあり方を模索している。「多様な勝負の仕方があると考えていて海外でも何かしたいが、自分の場合は“長期戦”だと思っています。じっくり成長していきたい」と自己分析する。「ここのがっこう」は、みんなのものであり、山縣自身の学舎(まなびや)でもあるのだろう。
『10 MAGAZINE JAPAN』からの10の質問
Q1. 優秀なデザイナーが持つ才能とは?
A1. 自分自身の潜在意識や深層の部分と、他者の潜在意識と深層にどこまで深くタッチできるかということ。
Q2. ファッションデザイナーになりたいと思ったのはいつ?
A2. 高校生くらいのとき。テレビ番組で山本耀司さんや高橋盾さんを見て「かっこいいな」と思った。ファッションデザインに照準を絞ったのはロンドンへ行ってから。
Q3. キャリアの転換点となったコレクションは?
A3. ブランドを立ち上げる前に、イタリアのITSコンテストに出品して受賞した作品。もうひとつは、東日本大震災の翌年、2012年に発表した「The seven gods(七服神)」というコレクション。
Q4. デザイナーになりたい若者へのアドバイスは?
A4. 強い意志とめげない心。自分のルーツや存在を大事にしつつ、そこから生まれるものに素直に向き合うこと。
Q5. もしデザイナーでなかったら、何になりたかった?
A5. 「表現者」でいたい。ファッション以外だとアートかな。
Q6. あなたの仕事のいちばんの醍醐味は何?
A6. 常に何かを探求している感覚です。自分のもの作りやファッションの可能性を考えたり、何か新しいものに出合ったときにすごく心が躍ります。
Q7. 今日の服を選んだ理由は?
A7. ワークウェアを原型にしたリトゥンバイのジャケット。リトゥンアフターワーズでは非日常的なファンタジーを表現しますが、自分自身に対しては素朴な労働者というイメージがどこかであるので、ワークウェアがしっくりくる。
Q8. あなたのブランドのスタイルをひと言で表現すると?
A8. 「クズから宝物まで」。人から見ると価値がないものにも目を向けたい一方で、クチュールのようなものも好きだから。
Q9. これまでで最高のアドバイスは?
A9. 「絵が素晴らしいから、ちゃんと続けなさい」。LVMHプライズの審査のときにカール・ラガーフェルドさんが言ってくれた。大事なことを伝えてもらった感覚でした。
Q10. あなたにとって「服」が意味することとは?
A10. 人間が生きていく上での根源的な表現のひとつ。
Photographer YASUTOMO EBISU
Interview & Text MITSUKO WATANABE
Sitting editors SAORI MASUDA and TOMOMI HATA
Digital editors SHOKO NATORI and MIKA MUKAIYAMA
