「アンリアレイジ」デザイナー、森永邦彦へ10の質問【渡辺三津子が綴る、未来を照らすデザイナーたち連載 vol.5】

『10 MAGAZINE JAPAN』の創刊号では、本誌ファッション・フィーチャーズ・ディレクターでファッションジャーナリストの渡辺三津子が、日本のファッション界の中核を担う9人のデザイナー、二宮啓、宮前義之、山縣良和、黒河内真衣子、森永邦彦、井野将之、落合宏理、高橋悠介、中里唯馬にフォーカスを当て、10の質問を投げかけた。

第5回目は、アンリアレイジのデザイナー、森永邦彦へのインタビューを紹介する。9人のデザイナーの創作の軌跡を追い、それぞれが切り拓く未来への視座に迫った渡辺の総論とともに、共通の10の質問に対する各々の個性が光る返答にも注目してほしい。

森永邦彦/「アンリアレイジ」デザイナー

日常と非日常が交差する、その瞬間を服で追い求める

──テクノロジーとリアリティ。服が日常を変え、讃える

森永邦彦はいい意味での「思い込み」を最大限に生かせる人である。直感を信じ続ける強さがあると言えるかもしれない。高校3年のときに「服が日常を変える」瞬間に出合い、進路を公務員からデザイナーにいきなり変更し、大学卒業と同時に2003年にアンリアレイジを立ち上げる。

「神は細部に宿る」を信条として、手仕事のパッチワークやボタン刺繍を極限まで追求する手法がブランド初期のアイデンティティとなり、今も継続されている。一方、2014年に念願だったウィメンズのパリ・ファッションウィークに初参加した際には、クリエイションの軸を反対に「非日常を描く、という軸で勝負」することを決め、光で色が変化するフォトクロミック素材など、企業と開発した先端テクノロジーを「新しい武器」としてファッションを追求し始める。その実験は今も継続し、2019年にLVMHプライズのファイナリストに選出。アニメーション作品(『竜とそばかすの姫』)と協業したドレスがNFT作品と共に美術館に購入され、2023年にはビヨンセのステージ衣装にもその名を連ねた。

ブランド創設20周年を迎えた後、2024年はメンズラインの初ショーを3月に東京で開催した。今後もメンズは東京のみでの発表だという。「これまでもメンズがブランドのコアの部分を支えていたこともあって、あらためてショーで日本の人々に見せていこうと思いました」と森永は語る。メンズでは「日常の中でどれだけ非日常を描けるか」をテーマに、ウィメンズのテクノロジーとは真逆のリアリティあるアイテムに手仕事を加えた服が揃う。

「その二軸を持つことが他のブランドと違う強みになっていけばいい」と考え、森永は「もっと狭く、濃いものをひとつの軸として東京でやりたい」と新たな抱負を述べる。そして、「もう一度もの作りを強固にするために、自分たちのアトリエも作った」という。日常と非日常の造語から生まれたブランドは、名実ともにその両方を軸足に次のフェーズに向かっている。

『10 MAGAZINE JAPAN』からの10の質問

Q1. 優秀なデザイナーが持つ才能とは?
A1. 「想像」をかたちにして作れる人。「妄想」と言ってもいいかもしれませんが、それを頭の中で膨らませられる人。

Q2. ファッションデザイナーになりたいと思ったのはいつ?
A2. 高校3年生。そのとき通っていた予備校の先生が授業中に、デザイナーの神田恵介さんの服を見せてくれたとき。一着の異質な服が、その場の空気を一変した破壊力がすごかった。「ファッションでこんなことができるのか」と衝撃を受けた。

Q3. キャリアの転換点となったコレクションは?
A3. 2014年にパリで見せた1回目のショー。初めて本格的に服にテクノロジーを入れたときです。

Q4. デザイナーになりたい若者へのアドバイスは?
A4. ファッションは長距離走だと思う。継続が力になり、短期間で一喜一憂せずに、走り続けていれば絶対に道は開ける世界だと思っています。

Q5. もしデザイナーでなかったら、何になりたかった?
A5. 市役所の公務員。父親もそうだったので、自然とそう思っていた。

Q6. あなたの仕事のいちばんの醍醐味は何?
A6. まだこの世にないものを生み出せたとき。ブランドでも、一着の服でも。かつ、それで生きていくことができれば、これ以上幸せなことはないと思う。

Q7. 今日の服を選んだ理由は?
A7. ケイスケカンダの最新コレクションの刺繍入りジャケット。原点でもあり“今”でもあるから。神田さんの服かアンリアレイジか、その二択です。

Q8. あなたのブランドのスタイルをひと言で表現すると?
A8. 日常と非日常、極と極の混在。それが重なる瞬間。

Q9. これまでで最高のアドバイスは?
A9. A1.の予備校の先生が教えてくれたリチャード・ニクソンの言葉。「人間は負けても終わりではない。諦めたときに終わる」。

Q10. あなたにとって「服」が意味することとは?
A10. 服は日常を変える唯一最後の装置だと思う。音楽や映画の趣味はわからなくとも、服を見ればその人のことが一目でわかるし、着るだけで何かが変わる瞬間がある。

Photographer YASUTOMO EBISU
Interview & Text MITSUKO WATANABE

Sitting editors SAORI MASUDA and TOMOMI HATA
Digital editors SHOKO NATORI and MIKA MUKAIYAMA