『10 MAGAZINE JAPAN』の創刊号では、本誌ファッション・フィーチャーズ・ディレクターでファッションジャーナリストの渡辺三津子が、日本のファッション界の中核を担う9人のデザイナー、二宮啓、宮前義之、山縣良和、黒河内真衣子、森永邦彦、井野将之、落合宏理、高橋悠介、中里唯馬にフォーカスを当て、10の質問を投げかけた。
第6回目は、ダブレットのデザイナー、井野将之へのインタビューを紹介する。9人のデザイナーの創作の軌跡を追い、それぞれが切り拓く未来への視座に迫った渡辺の総論とともに、共通の10の質問に対する各々の個性が光る返答にも注目してほしい。
井野将之/「ダブレット」デザイナー
「違和感のある日常」でコミュニケーションを生む
──“楽しい違和感”から生まれるファッションの伝播力
井野将之に初めて会ったのは、2018年LVMHプライズ・グランプリ受賞の直後。用賀駅近くの少々年季が入ったビルの一室で、仲間たちと肩を寄せ合うように仕事をしていた。今回6年後に訪ねたのも同じビルの同じ部屋。6年前に語った「誰もが人気者になる」「会話が生まれる服」という考え方や、気負わぬ態度も「あの頃からほとんど変わっていない」という。
90年代半ばの裏原ブームの時代にデザイナーを意識し始め、ファッションスクールを2002年に卒業後、アパレル会社に就職したが数年で退社。自作のベルトを三原康裕に見てもらったのをきっかけにメゾン ミハラヤスヒロへ。2012年に独立、ダブレットをスタートする。ブランド名は「二重のもの」「言葉遊び」を意味し、井野のウィットと遊び心を象徴している。2018年のグランプリ受賞による多額の賞金とメンター制度など多くのサポートを「ありがたい」と思いながらも、「目標は現状維持、と答えて失礼だったな」と回想する。
バイヤーからのオファーも急増したが「一過性のブームになるのが嫌で、あまり広げなかった」という。しかし、「LVMHには世界の人々に知ってもらえる場所に行かせてくれたことをいちばん感謝」しており、パンデミック後の2022年からパリでショーをスタートした。「今は服だけでなく、僕らの考え方や疑問を表現し、そこから会話などがもっと広がっていくことをしたい」と考えている。
「アイドル」がテーマの2025年春夏のショー会場にはマンガが描かれた横断幕が垂らされ、ダブレット流「推し」の演出が会場を沸かせた。受賞当時は「もの作りの力が追いついていないと思っていた」が、今は「(受賞者として)どこに出しても恥ずかしくない」ブランドに成長していくことを目指している。サステナブル素材への取り組みもあり、売り上げも受賞後から「倍くらいになった」。「ちゃんと会社も成長させたい」と、「現状維持」の日常はすでに「違和感」となっているようだ。
『10 MAGAZINE JAPAN』からの10の質問
Q1. 優秀なデザイナーが持つ才能とは?
A1. 独自の考え方を持っている人。誰もやっていないもの、というよりも誰も持っていない「考え方」が大切だと思う。
Q2. ファッションデザイナーになりたいと思ったのはいつ?
A2. 高校2年ぐらい。90年代の半ばにあった古着や裏原ブームから服に目覚めた。絵を描くのが好きで、服も好きで、そこからファッションデザイナーになりたい、と。
Q3. キャリアの転換点となったコレクションは?
A3. LVMHプライズのグランプリを受賞したこと。それと、2016年に流行のノームコアの反動から、刺繍をたくさん重ねたスカジャンを作ったとき。
Q4. デザイナーになりたい若者へのアドバイスは?
A4. 自分らしさを大切にすることがとても大事。時代によって新しい考え方は絶対生まれてくると思うので。
Q5. もしデザイナーでなかったら、何になりたかった?
A5. 映画監督か漫画家。子供の頃は漫画家になりたくて、『ドラゴンボール』とか今でも結構うまく描けます。映画監督はダニー・ボイルやクリストファー・ノーランなどが好き。ゾンビ映画も大好きです。
Q6. あなたの仕事のいちばんの醍醐味は何?
A6. 0を1に、1万にもできること。自分のアイデアをみんなの力で服にしてくれて、それを着て喜んでくれる人がいる。そんなファッションの伝播する力が大好きです。
Q7. 今日の服を選んだ理由は?
A7. 出身地の群馬県の桐生八木節をテーマにしたTシャツ。“上毛かるた”という群馬限定のかるたのTシャツを毎年正月に作っています。
Q8. あなたのブランドのスタイルをひと言で表現すると?
A8. 違和感のある日常。「見たことあるけど見たことない」みたいな既視感がある方が人の気持ちが引き寄せられるから。
Q9. これまでで最高のアドバイスは?
A9. 「崖っぷちで笑え」。メゾン ミハラヤスヒロの三原康裕さんに言われた言葉。
Q10. あなたにとって「服」が意味することとは?
A10. 服はコミュニケーションツールだと思う。会話が生まれることとか。
Photographer YASUTOMO EBISU
Interview & Text MITSUKO WATANABE
Sitting editors SAORI MASUDA and TOMOMI HATA
Digital editors SHOKO NATORI and MIKA MUKAIYAMA
