『10 MAGAZINE JAPAN』の創刊号では、本誌ファッション・フィーチャーズ・ディレクターでファッションジャーナリストの渡辺三津子が、日本のファッション界の中核を担う9人のデザイナー、二宮啓、宮前義之、山縣良和、黒河内真衣子、森永邦彦、井野将之、落合宏理、高橋悠介、中里唯馬にフォーカスを当て、10の質問を投げかけた。
第2回目は、エイポック エイブル イッセイ ミヤケのデザイナー、宮前義之へのインタビューを紹介する。9人のデザイナーの創作の軌跡を追い、それぞれが切り拓く未来への視座に迫った渡辺の総論とともに、共通の10の質問に対する各々の個性が光る返答にも注目してほしい。
宮前義之/「エイポック エイブル イッセイ ミヤケ」デザイナー
Issey Miyakeの哲学を未来に繋ぐデザインの実験
──「デザインの希望」で未来のプラットフォームを描く
宮前義之が三宅一生と初めて会ったのはデザイナーを志した15歳のとき。東京で開かれたイッセイ ミヤケのショーに知人に連れられて行った際、偶然本人に出会う。その一週間後、ウィリアム・フォーサイスの公演で再会し、三宅は「自作の服を着る高校生」を展示会に招いてくれた。
その後、宮前は文化服装学院を卒業後、「もっと広くデザインやアートに触れたい」と海外を巡りながら自由な生活を3年間過ごしていたが、三宅から誘われてエイポックに2001年に参加することになる。「運命」と呼びたくなる縁も時にはあるものだ。服作りの現場を何も知らなかった宮前は「工場の人に素材の基礎から教えてもらって、本当に鍛えられた」と振り返る。
2011〜19年の間、イッセイ ミヤケのデザイナーを務め、三宅と話し合った上で新ブランド、エイポック エイブル イッセイ ミヤケを2021年に始動した。残念ながら三宅はその翌年、逝去する。「今までは三宅が全体を俯瞰していましたが、これからは自分たちでやらなければならないので、率先して社内の化学反応を起こしたい」と宮前は語る。
現在会社には9つのブランドが存在する。「三宅はプラットフォーム作りがすごく上手だった。僕の勝手な解釈ですが、人にチャンスを与え、育てるためにブランドを作ったのではないかと思っています。三宅は常に挑戦してきた人なので、僕たちも挑戦しないと会社のアイデンティティがなくなってしまう。みんなが自由に挑戦できるのは、『一枚の布』というブランドの哲学、すなわち戻る場所があるからだと思います」。「その哲学を未来に繋げるプラットフォームを作ること」が宮前の今後の目標だという。
医療や宇宙開発の専門家にも興味が湧いたらすぐ会いに行くという彼のフットワークの軽さは、「デザインには希望がある」という三宅の言葉を自分自身の生き方とし、そこに血肉を与える情熱から生まれてくるのだろうと思われる。実験室のような蒸気(プリーツを生成させる)が立つ仕事場には、ファッションにとどまらない「デザインの力」が社会に広がる未来を見つめる明るさが満ちている。
『10 MAGAZINE JAPAN』からの10の質問
Q1. 優秀なデザイナーが持つ才能とは?
A1. 創造性。美しいものを見抜く力。コミュニケーション能力。問題を見つけ、解決していく力。着る人中心の思想。柔軟性と適応力。飽くなき探究心。
Q2. ファッションデザイナーになりたいと思ったのはいつ?
A2. 幼い頃からもの作りがすごく好きで、15歳から独学で服を作り始めた。
Q3. キャリアの転換点となったコレクションは?
A3. イッセイ ミヤケのデザイナーになって2回目の2012年秋冬コレクション。1回目は自分の好きなことを追求したが、やはりプリーツに代表されるブランドの歴史を発展させていかなければならないと気づいた。
Q4. デザイナーになりたい若者へのアドバイスは?
A4. あらゆることに疑問を持つこと。三宅一生も「疑問を持たなくなったらデザイナーとしておしまいだよ」とよく言っていた。あと、大切なのはリサーチや研究など「デザインのための準備」。
Q5. もしデザイナーでなかったら、何になりたかった?
A5. 見つからない。音楽でもアートでも自分ができないことはできる人と共創をすれば、どんな体験や経験でもできると信じている。
Q6. あなたの仕事のいちばんの醍醐味は何?
A6. 創造のプロセス。職人さんや異分野のエキスパートと作り上げるもの作りの過程がいちばん楽しい。
Q7. 今日の服を選んだ理由は?
A7. A-POCのネイビーのシャツとパンツ。ネイビーは集中力を高め、心を落ち着かせる色。
Q8. あなたのブランドのスタイルをひと言で表現すると?
A8. スタイルがないのがスタイルかもしれない。プロダクト的な作り方をしているので着る人が個々の生活のなかで自由に着てください、と伝えたい。
Q9. これまでで最高のアドバイスは?
A9. スティーブ・ジョブズの言葉で、「connecting the dots」すなわち「過去の経験が未来に繋がる」という話と、「直感と信念を持つことの大切さ」。
Q10. あなたにとって「服」が意味することとは?
A10. 永遠のテーマなのでわからない。言語化できないものを形にしようとしている気がします。
Photographer YASUTOMO EBISU
Interview & Text MITSUKO WATANABE
Sitting editors SAORI MASUDA and TOMOMI HATA
Digital editors SHOKO NATORI and MIKA MUKAIYAMA
