トモ コイズミのデザイナー、小泉智貴が語る“東京の強みを生かしたクリエイションで世界へ”

フリルを何層にも重ねたアイコニックなドレスで、一躍トップデザイナーのスターダムを駆け上がった小泉智貴。大学で美術を専攻していた彼は、ドレスデザイナーでありながら“美術作家”としての顔も持つ、多彩な才能の持ち主だ。そんな彼が、世界中のクリエイターをも魅了し、今まさに新たな文化やアイデアが生まれ続けている都市“東京”について、自身の活動を振り返りながら未来を見据え、この10マガジンだけに特別な想いを語ってくれた。

インスタグラムを通してトップスタイリストのケイティ・グランドによって才能を見出され、2019年2月のNYファッションウィークで初のショーを開催したトモ コイズミ。本人は当時を振り返って「衣装の仕事が入ったらいいなぐらいに思っていた」と言うが、この一夜をきっかけにスターデザイナーの仲間入りを果たした。彼の代名詞ともいえるフリルのラッフルドレスは、日暮里の残布を売る市場でポリエステル製のオーガンジーの余り生地を大量に見つけたことから始まった。

その生地でトライ&エラーを繰り返した末、フリルを何層にも重ねた、カラフルでボリュームのあるドレスに仕上げていった。「自分は既にあるものをどう手を加えて面白くしていくかを試すタイプ。こういう生地店が東京にあるおかげでチャレンジする余裕を持てるし、デザインと自分の成長にとっての欠かせない要素になっています。今また新しいテクニックとかディテールをディベロップしているんですよ」

自分のペースで満足のいくクリエイションを満足のいく形で発表することにこだわり、時に他ブランドとのコラボアイテムを発売する。そのファッション業界との“ちょうどいい距離感”で、ファッションデザイナーとして独自の地位を築き、昨年は熊川哲也が率いるKバレエトウキョウの衣装と演出を手がけた。

「ライブのステージ衣装やバックダンサーの衣装は作ったことがあるのですが、またそれとは違う難しさのある仕事で、すごくいい経験になりました。バレエダンサーってアスリートと同じ。衣装が表現の邪魔をしちゃいけないけど、でも全部を譲っていたら全身タイツの方がいいってことになってしまう。お互いに譲歩する部分はありつつ、試行錯誤して作っていきました。新しいことには常に挑戦していきたいと思っていて、次はオペラや歌舞伎にも興味があります」

「Ensemble」と名付けられた彼のガウンがニューヨークのメトロポリタン美術館に永久所蔵されているが、2023年には本格的に美術作家としてもキャリアをスタート。大きなフリルの生地に手でペイントをほどこし、ファッションとも、絵画とも、彫刻とも異なる新しいアートを個展で発表した。

「大学で美術を勉強していたのですが、まさか自分がプロの美術作家になれるとは思っていなかったので、今もう一度美術史をおさらいしたり、作家の視点に立って美術展を見たり、いちから勉強し直しています。気になる時代の美術の潮流やその時代の歴史を読んで過去を学びつつ、でも過去に沿ってしまっては新しいものは生み出せない。カテゴリーにはめることを考えるより、自分の作りたいものを精一杯作ってあとからカテゴリーができるといいなと思っています。その分時間はかかると思うけど、それぐらいの覚悟でやらないと多分うまくいかないと思うんです」

アートにおいてもファッション同様、真ん中に行こうと思ってはない。大切にしたいのはメインストリームとの距離感だ。「いい距離の取り方とか考え方の違いが、自分の作るものの差別化やユニークさに繋がっていくと思うんです。考え方も立ち位置も、すべてにおいて自分だけの作品を作り出して、そこに自分自身を反映できていたら、一番にはなれないとしても、そこそこいい感じではいけるのかな?細く長く続けていけそうですよね」

新たなプロジェクトに取り掛かることによって、改めてドレスを作ることの楽しさのを再認識していると言う。とはいえ、未来をファッションとアートに限定しているわけではない。

「正直なところ別に何でもいいんです。まだ形にはなってないけど最近絵も描いていて、そっちがもしうまくいったら画家になってるかもしれない。でもドレスを作るのもやっぱり好きだし、多分その時々に自分の好奇心が向いたことをやっているんだと思います。集中して物を作るのは好きなのですが、とはいえ1個のことをずっとやっていると飽きてしまうので、ドレスを作ったり絵を描いたり、その中間のものを作ったり。あと今は本も書いているんですよ。これまで学んできたことをまとめた、デザイナー志望の人に役立つような本にしたい。もう1年くらい前から取り組んでいます。書くことは好きなのですが、実際文章にしようと思うと大変ですね」

コレクションや作品でどんなに高い評価を得ようと、おごることなくマイペース。この先も、このスタンスで自分らしい表現の可能性を探っていく。「作るものに対して焦ってしまうと、その場限りのものになってしまう気がするんです。自分が死んでも残り続けるものを作りたいので、勉強して、考えて、もの作りを続けます。今までもそういう気持ちで作ってきたし、それは一生変わらない。自分の作るものが、道を切り開いてくれるって信じているので」

Profile
小泉智貴
ドレスデザイナー、美術作家。千葉県出身。14歳の頃に当時「ディオール」のデザイナーだったジョン・ガリアーノが作るドレスに憧れ独学で服作りを始める。千葉大学在学中の2011年に「トモ コイズミ」をスタート。20192月、トップスタイリストのケイティ・グランドに才能を見出され、初となるファッションショーをニューヨークで開催。2020年、LVMHプライズ優勝者の1人に選出。2021年には、東京五輪の開会式で国歌斉唱を務めたミーシャが「トモ コイズミ」のガウンを着用したことでも話題に。2023年には美術作家として初となるアート個展を開催する。

Special thanks to THE TOKYO EDITION, TORANOMON, LOBBY BAR

Photographer YUJI WATANABE
Text TOMOMI HATA
Sittings Editors SAORI MASUDA and TOMOMI HATA
Digital Editor MIKA MUKAIYAMA