3月21日(土)に発売された『10 MAGAZINE JAPAN』2026年春夏最新号のテーマは、「創造の自由」。既存の価値観を遊び心を持って更新するアーティストとデザイナーたちをフィーチャーしている。研究者/メディアアーティストとして活躍する落合陽一もその一人。AIが切り拓く新たなクリエイションの可能性について、ここでは誌面では掲載しきれなかったエピソードをお届けする。
「最近の人間は、賢さはちょっとした『おまけ』になってきています」。落合陽一は、AIの進化によって変わりつつある人間の立ち位置をそう表現する。「論文を書くのも困らなくなってきたし、数学の難解な証明問題と言った難しいタスクを人間以外が先にできるようになったら面白い」。かつて人間の知性の象徴とされてきた領域においても、その前提は揺らぎ始めている。
象徴的なのが、音楽の領域だ。AIによって生成された楽曲を扱う現在の環境では、その場で流しながら同時に手を加えることができる。「作曲と再生の区別はもうつかないと思います。私はDJしている時に作曲してることがほとんどなんですよ」と話すように、行為としての境界はすでに曖昧になりつつある。「小説家と読み手の区別もつかなくなるし、漫画家と読み手の区別もつかなくなります。実際、1コマ漫画ならXで流れてくるようなものはGeminiのNano Banana Pro(AI 画像生成&写真編集ツール)で即座に作って、みんなで見せ合う感じです」
こうした変化をめぐっては賛否が分かれ、創作の価値についての議論が続いているが「『写真で魂が抜かれる』と言われていた時代もありますし、デジタルカメラが出てきた時も写真家が危惧していました。でも今は普通に使っています。AIに対する感じ方も10~20年単位で変わるでしょう」と受容のプロセスを予測する。さらにその先は人間の知覚や楽しみ方そのものが更新され「人間が今まで楽しめなかった音楽を楽しめるようになる」という見立てだ。

では、その中で何が残るのか。「人間の『変な着地』を見ると感動する」と落合は言う。「普通に生きていたはずなのに、どうしてこうなったのかわからないもの」。たとえば、パフォーマンスアーティストのステラークは、自身の腕に「第三の耳」と呼ばれる人工的な耳を移植している。実際に形を持ち、通信機能を備えたその耳は、身体の拡張というよりも、どこか説明のつかない違和感を伴う存在だ。「面白いバグみたいなものですよね。そういう意味の分からない着地は面白い」
合理性や効率が加速していく一方で、説明のつかない逸脱や違和感に対する興味はむしろ際立っていく。研究者として、メディアアーティストとして、そしてDJとして。複数の立場を横断しながら語られる視点は、技術の進展を過度に礼賛することも、悲観することもなく、その変化を前提として捉えている。
その関心は、自身の作品にも通底している。今年7月から霧島アートの森で開催される個展「天孫帰るってよ?」では、「ホモサピエンスが終わったから、天孫の子孫が『高天原に帰ります』と荷造りするという設定」だと語る。人間の終わりを天孫降臨の神話に接続することで、自然の循環の中に位置づける。そのどこか突飛で、しかし妙に腑に落ちる発想もまた、「変な着地」の延長線上にあるのかもしれない。

2026年度特別企画展「落合陽一|天孫帰るってよ?」
「天孫帰るってよ?:まるさんかくしかくの印影鏡 ⽗⺟の姿をも百年の後に残す貴重の術 だったが やっぱり⼟器だね ドキドキだね ⽕⼭がどっかーん ホモハビルスから数えて10回くらいは噴⽕してるんじゃねーの さよならホモサピエンスこれまでありがとう」
会場:鹿児島県霧島アートの森 アートホール
会期:2026年7月11日~9月23日 9:00~17:00
※7月20日~8月31日の土・日・祝日は19:00まで、入園は閉園の30分前まで。
※休園等の詳細は公式サイトを確認のこと
Profile
落合陽一
1987年生まれ、2010年ごろより作家活動を始める。境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開。筑波大学/東京大学准教授、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサー。写真集『質量への憧憬(amana・2019)』、NFT作品「Re-Digitalization of Waves(foundation・2021)」など。『null²』は「GREEN × EXPO 2027」へ移設。
Photographer KISSHOMARU SHIMAMURA
Editor & Text FUYUKO TSUJI
Special thanks to OMO5 Tokyo Gotanda by Hoshino Resorts
